Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
心電計が日常診療に普及するより以前から,家族内で若年者の突然死が集積することが知られており,状況から心臓性の突然死が疑われ,病因究明の剖検を行っても,心臓になんらの器質的な異常を発見できず,家族性突然死症候群と呼ばれていた.臨床心臓病学の発展に伴い,この家族性突然死症候群のなかに,生前の少しずつ異なる病像や心電図所見が発見されてきた.
たとえば,心電図上,著しいQT延長を来す1群では,ある種の薬剤や低カリウム血症などにより,torsade de pointesと呼ばれる特異な多形性心室頻拍さらにはこれから心室細動に移行することが観察され,QT延長症候群として独立した疾患概念が提唱された.これに加えて,前世紀からの爆発的な分子遺伝学的アプローチの進歩により,これらの疾患群の基盤に,心臓の興奮や伝導・収縮に関わる蛋白(イオンチャネルやその調節蛋白など)をコードしている遺伝子の異常が発見された.さらに,パッチ・クランプ法などの精密な機能解析を通して,これらの遺伝子上の異常(変異あるいは単一塩基多型)が,イオンチャネルなど重要な蛋白の働きに変調を起こし,結果として種々の不整脈を惹起することが明らかとなった.このような疾患概念から,現在,チャネル病あるいは遺伝性不整脈(inherited primary arrhythmia syndromes)というような病名が広まっている.
以上のように比較的歴史の浅い疾患概念ではあるが,それだけに内容は日進月歩であり,昨年(2013年),世界の3大陸不整脈学会,すなわち,アジア太平洋・北米・ヨーロッパの当該分野のエキスパートが集まり,この遺伝性不整脈の診断と治療に関するコンセンサスをまとめる形で,論文が発表された.おのおのの機関誌である,Heart Rhythm,Europace,Journal of Arrhythmiaに掲載されたが,本稿ではこれの要点を紹介しながら,重要な疾患群について解説する1~3).なお,このコンセンサス・ステートメントは,この分野の専門家に直接,アンケート方式で意見を求め,各項目について高い率の合意を得られたものを採用する形で,作成された.多くの事項で,94%以上の合意があり,さらに,すべての事項について,84%以上の専門家の合意が得られている.また,治療法については,そのエビデンス・レベルに従い,4つのClassに分けて論じられている.各疾患の図表のなかに明示されているので,参考にされたい.
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.