Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboemboric pulmonary hypertension;CTEPH)は急性肺血栓塞栓症発症後2年以内に3.8%に合併する1)とされる,難病である.本邦における2010年度の特定疾患受給患者数は1,288名2)と少数にとどまっているが,本邦の急性肺血栓塞栓症発症率が2006年度には人口100万人あたり62人3)とされており,今後も毎年300人程度が増加することが見込まれる.さらに,特異的な症状のない本症は,診断が確定されないものも多数あることが推測され,潜在的患者数は相当数存在することが予測される.
CTEPHでは平均肺動脈圧(mean pulmonary artery pressure;mPAP)が30mmHgを超えると予後不良と報告されているが4),肺動脈内腔に存在する器質化血栓を外科的に除去する肺動脈血栓内膜摘除術(pulmonary endarterectomy;PEA)により根治可能な点において,肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension;PAH)と大きく異なる.しかし,病変の主座が亜区域枝以降でPEAによる有効性が比較的得にくい末梢型CTEPH症例が存在する点,高齢,合併疾患などで手術適応にならない症例が存在する点,PEAを施行可能な施設が限られている点から,PEAはすべてのCTEPH患者を救済する治療法とはなり得ていない.これまで手術不適症例に対してはPAHと同様に血管拡張薬を用いて加療を行ってきたが,PAHとCTEPHの病因の違いを考えればその効果は非常に乏しいことは想像に難くない5~7).そのような背景から,手術不適なCTEPH症例に対するバルーン肺動脈拡張術(balloon pulmonary angioplasty;BPA)施行の報告が,1988年には既になされているが8~10),血行動態改善度と周術期死亡率の双方でPEAに比して優位性を保てず,BPAがCTEPHの治療オプションとしての地位を確立することはなかった.
当院では2004年からPEAの適応がなく薬物療法も限界となった症例に対して救命目的にBPAを開始した.過去の報告に学び試行錯誤の末,PEAに勝るとも劣らない成績を報告するに至った11).現在(2013年7月)までに170症例,計800回を超える治療を経験し,根治に近い血行動態改善が得られるのは当然となり,合併症もほぼ問題ないレベルに押さえ込むことに成功しつつある.本稿では当院でのBPAの実際について概説する.
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.