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はじめに
肺高血圧症のダナポイント分類4群に属する慢性血栓塞栓性肺高血圧(chronic thromboembolic pulmonary hypertension;CTEPH)は予後不良な疾患ではあるが,肺動脈性高血圧症(pulmonary arterial hypertension;PAH)と異なり,器質化血栓に起因する狭窄・閉塞部を内膜ごと摘出する肺動脈血栓内膜摘除術(pulmonary endarterectomy;PEA)により,外科的に根治できる可能性を有する疾患である.しかしながら,PEAは高齢者や全身状態不良な症例には侵襲が過大であること,熟練した術者のいない施設では周術期の死亡率が高いこと,手技的な問題から病変の主座が区域枝より末梢にある場合には肺高血圧残存の可能性があるといった問題も有している.このため手術不適と判断された症例に対しては,PAH同様の治療薬を用いた内科的治療が試みられてきたが1~3),十分な予後改善が得られているとは言い難い4).
Feinsteinら5)は2001年に,CTEPHに対するバルーン拡張術(ballon pulmonary angioplasty;BPA)を試み,その有用性を報告した.血行動態や運動耐容能の有意な改善を認めた一方で,18例のうち1例を合併症で失っており,習熟した術者を擁する施設におけるPEAの死亡率6)と比して優位性を保てなかったことから,2008年に開催された第4回肺高血圧症世界シンポジウムや欧州心臓病学会のCTPEH治療ガイドラインへは収載も果たせていないのが現状である7,8).しかしながら現実の問題として,わが国においてPEAに習熟した施設の数はかなり限られており,また手術不適と判断されながら保険適用となる特異的治療薬も存在せず,さらにPAH治療薬の適用外使用による内科的治療すらも限界に達している患者が数多く存在する.
こうした症例に対し,当院では2004年からBPAを施行してきた.31症例全てが中間型から末梢型かつPEA適応外のCTEPHで,1例も失うことなく,収縮期および平均肺動脈圧(systoric pulmonary artery pressure;sPAP, mean pulmonary artery pressure;mPAP),肺血管抵抗(pulmonary vascular resistance;PVR),心係数(cardiac index;CI)などの循環動態,ならびにWHOの機能分類といった自覚症状の改善を得ることができた.
本稿では,当院における肺動脈カテーテル治療の手技と術前術後管理ならびに解決すべき問題点を概説する.
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