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はじめに
本態性高血圧の成因として自律神経活動の重要性が古くから指摘され,様々な角度から検討されてきた.高血圧モデル動物として広く用いられている自然発症高血圧ラット(SHR),Dahl-食塩感受性高血圧ラット,Goldblatt 2腎性高血圧(腎血管性高血圧)および1腎性高血圧モデル動物,腎性高血圧モデル(3/5腎摘動物)のいずれにおいても,高血圧の成因として交感神経活動の明確な関与が明らかにされているが,ヒトでは実験系の組み立てが困難なことから,明確とは言えないまでも関与を支持する研究が多い.なかでも,本態性高血圧発症初期の血圧動揺期にある若年者では一致した見解として交感神経活動の亢進が示されている.また,高血圧の発症と密接な関係が指摘されている肥満に伴って交感神経活動が亢進し,その逆の減量で活動は低下する.メタボリック・シンドローム(MetS)では,この交感神経系の関与が重要な役割を演じている.しかし,ヒトの高血圧状態において,明らかなほどには交感神経活動が亢進していない.その理由として,交感神経活動により血圧が上昇することで反射性に交感神経活動は抑制されるので,結局,基本的な交感神経活動のレベルに応じて血圧が規定されるものと思われる.事実,ヒトの腎神経を観血的に切除する方法が考案され,臨床的に応用されているが1),治療抵抗性高血圧の血圧が顕著に正常化することからも,交感神経活動の役割が注目される.すなわち,本誌のテーマである「呼吸と循環」に関与する指標は,体温などと同様にいずれも中枢神経系により調節を受けていると考えられる.
他方,高血圧の成因として食塩の過剰摂取が問題視されてきたが,食塩過剰においても交感神経活動が亢進する.また,肥満が高血圧の一大要因であるが,MetSなどの肥満者では交感神経活動が亢進している.その根底にはナトリウム(Na)貯留がある.最近になって,Na過剰が脳内上皮型Naチャンネルを介して脳内レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)を活性化し,さらに脳内ウアバインの合成を促進して交感神経活動を高めることで高血圧がもたらされる可能性が指摘されている.また,末梢由来のアンジオテンシンⅡ(AngⅡ)やアルドステロン(Aldo)も直接脳に作用して交感神経活動を高めて高血圧をもたらすことも示されている.
そこで,本稿では交感神経活動と高血圧をめぐる最近の考え方を論じる.なお,最近発表した総説2)に,本稿で引用した論文は網羅しているので参照願いたい.
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