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近年,動脈硬化症,肥満・メタボリックシンドローム,糖尿病,慢性腎臓病などの循環・代謝疾患のみならず,アルツハイマー病などの神経変性疾患や癌の発症・浸潤・転移に共通する基盤病態として「慢性炎症」が一躍脚光を浴びるようになり,新たな観点から病態形成メカニズムを捉え直す研究が進み,その研究成果を創薬開発につなげる取り組みが行われつつある.これまで炎症(特に急性炎症)は,感染や外傷に対する生体の治癒に伴う症候として迅速に活性化され早期に退縮する生体防御機構という良い面が注目されてきた.一方,「慢性炎症」は,生体内の持続的もしくは反復的なストレスに対する実質細胞と間質細胞間の相互作用による恒常性維持応答機構が遷延・破綻することにより誘導され,その後引き続き可逆的な組織リモデリングを経て不可逆的な組織リモデリングが生じ,臓器の機能不全をもたらし,病態を進展させるといった悪い役割を担うものとして注目されている.しかし現時点では,「慢性炎症」は,自己免疫疾患とは異なり抗原の関わりも明らかでなく,どのような分子機構で炎症が活性化されるのか,また遷延するのかは十分には解明されていない.
1980年代,Russell Ross博士が,動脈硬化病巣に炎症時に特徴的にみられる白血球,マクロファージを発見し,粥状動脈硬化症の発症・進展機構として「傷害反応仮説」を提唱した.その後,動脈硬化病巣からT細胞,炎症反応として免疫細胞が産生するインターフェロンγなども同定され,粥状動脈硬化症と炎症の関連を疑うものなどいないほどである.一方,様々な心負荷により誘導される心肥大も,肥大化する実質細胞である心筋細胞が,間質の大部分を占める線維芽細胞との相互作用により心臓組織のリモデリングを引き起こしていることが解明されてきており,「慢性炎症」の関連する病態として注目を集めている.しかし「慢性炎症」は,疾患を発症もしくは進展させるのか,あるいは単に随伴しているだけなのかは十分には解明されていない.「慢性炎症」の意義を解明するには,炎症を抑制することの効果を検証することが必須である.「慢性炎症」の抑制・緩和は,創薬開発につながる新しい研究分野であり,既に研究者らによる激しい先陣競争は加熱している.循環器疾患の発症・進展における慢性炎症の意義,さらにその制御による治療の可能性は今後ますます解明されていき,診断,治療に広く臨床応用される日が近く訪れることを期待したい.
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