Japanese
English
特集 呼吸器疾患とエイジング
分子と細胞のエイジング
Aging of Molecular and Cellular Systems
松元 幸一郎
1
Koichiro Matsumoto
1
1九州大学大学院医学研究院附属胸部疾患研究施設
1Research Institute for Diseases of the Chest, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University
pp.545-552
発行日 2011年6月15日
Published Date 2011/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404101712
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はじめに
「エイジング(加齢)」や「老化」という言葉は,一般に個体レベルで使われるものであり,分子レベルや細胞レベルで用いる場合,その定義を確認する必要がある.術語としての「加齢」には物理学的加齢と生物学的加齢の2つの意味がある.物理学的加齢とは,時間が経過することによって,構造体の機能的秩序性が崩れてくる(劣化)ことを意味する.それは熱力学第二法則,すなわちエントロピーの不可逆的な増大に従うものであり,無生物であっても構造を持つ物体に共通して起こる現象である.生物を構築している各々の分子にも物理学的加齢がみられる.それに対して,生物学的加齢とは,生体内で進行する各構成要素の物理学的加齢が複雑に相互作用し,形態や機能が不可逆的に変化していく過程を意味する.本稿で「加齢」という術語は,言及しない限り生物学的加齢として用いる.加齢の終末点がいわゆる「寿命」である.「老化」も同様の意味で通常用いられているが,「加齢」と必ずしも同義ではなく,寿命にかなり近づいた時間幅の段階で顕在化する形態的,機能的変化を示す.
なお,細胞レベルでの「老化」には,それ以上細胞が分裂できない状態を意味する「細胞老化」という明確な術語上の定義が存在する(後述).一方,個体レベルでの加齢や老化の研究が進展するにつれて,それらの変化をもたらす細胞レベルでの変化とその仕組みも明らかになってきた.それらの変化をもって細胞の加齢ないし老化と意味付けることも蓋然性を有する.本稿では後者の見地からも細胞や分子の加齢を取り扱うことにする.
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