Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
肺線維症は,組織の炎症,傷害に続く修復過程において,炎症細胞浸潤,線維芽細胞の増殖,コラーゲンなどの細胞外基質(ECM)蛋白の過剰蓄積を特徴とする.これらの変化の結果として,非可逆的な肺構造や機能の破壊が起こり,肺の硬化,拘束性換気障害,ガス交換の低下などがみられる.
特発性肺線維症(IPF)は,厚生労働省の指定する特定疾患として国の難病に指定される特発性間質性肺炎のうち,最も頻度の高いものである.主に中高年に発症し,徐々に進行する労作時呼吸困難や乾性咳嗽を主訴とする疾患で,慢性経過で拘束性換気障害が進む.平均5年くらいの臨床経過で,高度な肺の線維化による呼吸不全,急性悪化,肺癌,感染症などの合併症のために,予後不良の経過をとる.診断後の5年生存率は20~40%,中間生存期間は2~4年(平均3年)程度である.喫煙や生活環境での粉塵吸入が危険因子であるが,詳細な機序は明らかではない.治療には,ステロイド薬や免疫抑制剤などの抗炎症薬が使用されているが効果は乏しく,特に抗線維化を標的とした治療が望まれており,最近はピルフェニドンのような新規薬剤の効果も報告され1),臨床現場で使用され始められているが,早急な対策治療が求められる疾患である.
ブレオマイシンの経気管投与が肺線維症の動物モデルとして頻用されてきた2).このモデルを用いた過去の実験から,線維化にはtransforming growth factor(TGF)-βが最も重要な役割を果たすと考えられ3),それは臨床的に肺だけではなく他の臓器の線維化でも共通して実証されてきた4).しかし,ブレオマイシン誘導肺線維症モデルにおいて,TGF-β系を,その中和抗体5),可溶性受容体6),あるいはTGF-βの阻害物質であるSmad7をアデノウイルスによって遺伝子導入すること7)などで遮断しても,線維化は必ずしも完全に抑制できなかった.これらは,TGF-β以外にも線維化に寄与する重要なmediatorが存在しうることを示唆している.しかも,TGF-β系を遮断したブレオマイシン誘導肺線維症マウスでは,確かに線維化は抑制されたが,肺の炎症は逆に悪化することが示されており3),TGF-βには線維化促進効果と同時に炎症調節効果がある.TGF-βのその線維化と炎症への相反する効果を鑑みると,肺線維症に対して必ずしもこの系のみを治療標的とするのではなく,新規の線維化促進系を見出すことが必要と考えられた.
そのなかでわれわれは,プロスタノイドに着目し,プロスタノイド受容体欠損マウスをブレオマイシン誘導肺線維症に使用して,その役割を検討した.本稿では,特に新規に発見した線維化促進脂質のプロスタグランジン(PG)F2αとその受容体FPのシグナル8)を中心に概説する.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.