巻頭言
循環器ニセ医者騒動と地域医療格差
中村 元行
1
1岩手医科大学心血管・腎・内分泌内科
pp.1193
発行日 2010年12月15日
Published Date 2010/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404101595
- 有料閲覧
- 文献概要
私共の地域では今年5月に循環器ニセ医者事件が起き新聞紙上などを騒がせた.その舞台になったのは太平洋沿岸にある某市の公立病院であった.人口6万の同市の面積は東京都23区の2倍であるが,そこには,いわゆる総合病院がこの1施設のみである.しかも,以前は某大学から循環器内科医が派遣されていたが,現在は外来応援診療のみとなっている.このような苦しい医療環境であったから身元確認が甘いままに循環器内科医を自称する者が県外から入り込み,幸いにも診療開始前に詐称と判り逮捕された.
現在もこのような厳しい医療環境は変わらず,経皮的冠動脈形成術の適応例は約100km離れた新幹線沿線の施設に大変な労力を払われ救急搬送されている.この約2時間かかる山道の搬送は途中急変のリスクも高い.今後導入される予定のドクターヘリも霧が多い沿岸地域では常時稼働が難しい.当然,最近のガイドラインにある総虚血時間2時間以内の達成は困難である.日本人において組織プラスミノーゲン活性化因子などを用いた再灌流療法の有用性に関してもエビデンスに乏しく,循環器を専門としない医師は躊躇する.このように循環器系専門医療の恩恵を受けることが出来ない地域は全国的にみると少なからずあり,また,他の医療分野にもこのような地域格差は存在する.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.