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はじめに
動脈硬化性疾患の早期発見,早期治療は世界的な課題である.脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)は,心臓の収縮により発生する大動脈の振動が動脈系を伝播する速度である.この速度は動脈の機能的,器質的硬化により速くなる.機能的硬化とは動脈内圧の上昇により,動脈壁が伸展され,壁ストレスが増した状態である.風船に空気を入れて膨らますと次第に風船の壁面が緊満してくる.これが壁ストレスが増した状態である.細動脈抵抗の上昇による高血圧では,より近位部の動脈壁は内圧上昇により伸展され,PWVは亢進する.器質的硬化は典型的には加齢現象にみられるように動脈中膜に起こる.動脈の伸展性の元となる弾性線維は動脈の繰り返しの拍動の過程で断裂し,伸展性の低い膠原線維に置き変わる.糖尿病や加齢で増加するAGE(advanced glycation end product)の沈着は膠原線維どうしの結び付きを促進し動脈壁を硬化させる.高血圧や糖尿病があると内皮細胞の酸化ストレスが増し,動脈壁硬化現象に拍車をかける.PWVを測定することで,血管の老化度,動脈硬化の進行度をある程度推定することが可能である.
理論的には動脈系の様々な部位でPWVの測定が可能であるが1),臓器障害のゴールドスタンダードとされるのは,弾性血管である大動脈の脈波伝播速度(carotid-femoral PWV;cfPWV)である.一方,近年はアジアを中心に,上腕―足首脈波伝播速度(brachial-ankle PWV;baPWV)が広く臨床に用いられている.この指標は,弾性血管のみならず筋性血管の特性も含むと考えられ,欧米ではその臨床応用に抵抗があるが,最近のエビデンスではcfPWVに遜色のない予後予測能を有することが明らかになってきている.
本稿では,cfPWVとbaPWVの最新のエビデンスを総括し,それぞれの臨床的意義をまとめてみたい.
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