巻頭言
医師の価値観
宮崎 俊一
1
1近畿大学医学部・循環器内科
pp.123
発行日 2010年2月15日
Published Date 2010/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404101424
- 有料閲覧
- 文献概要
私は1979年に医師になり,今年で30年の医者人生を送ってきたことになる.この間に自分自身の価値観がどのように変化したかを考えてみた.1979年当時は1966年をピークとして吹き荒れた学生運動もほとんど終息してきた時期であった.ただし,学生運動の発端のひとつには医学部における医局制度や大学講座制に対する反対運動があり,学生時代にはその名残があったために卒業後1年間は京都で研修したものの,研修後はできるだけ京都から離れたところで医業をやりたいと思った.このため静岡県のある地方病院へ赴任したが,当然ながら先輩の先生達を見ていると自分の医者としての能力は極めて低く,とてもまともな診療はできないレベルであることが明白に認識された.そして,できる限り早く一人前の医者になりたいと願った.つまりこの時期には“せめて平均的な医者としての知識と技能を身につける”ことが最大の目的および価値であり,その目的を達成することが最も重要なことだと考えていたと思う.
このような価値観を持っていたので自分の人生のなかで最も良く勉強した.できるだけ多くの臨床経験を積んで検査と治療技術を身につけようとし,その結果極端に睡眠時間が短かった時期だった.このような時期が4年ほど続くと,自分としては“平均的な内科医”として初歩的な知識と技術は身についたと思った.しかし,臨床の現場では一所懸命努力しても死亡する症例があり,その度に自分自身の能力の低さを痛感し続けていた.それで,自分は学生時代にあまりにも学習しなかったので医学の本質的な基本事項を理解していないと考えて大学院を志した.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.