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呼吸器感染症,特に耐性菌における最近1年間の話題
[1]はじめに
肺炎の死亡率は患者の年齢,基礎疾患,肺炎重症度などに影響されるが,耐性菌感染の臨床的意義は不明な点も多い.例えば,肺炎球菌性肺炎においてβラクタム薬耐性は死亡率に影響しないとの報告もあるが1),感受性菌に比較しペニシリン耐性の死亡率は高率との報告も認められる2).一般に耐性菌感染は死亡率の増加,入院期間の延長,入院費の増加の要因とされている3).耐性菌対策は経済的にも大きな問題であり,米国では1995年に40億ドルであったものが2000年以降には70億ドルまでに増加し,そのうち40億ドル以上は院内感染の費用とされている4).本邦においても耐性菌感染は医療界のみならず国全体の問題として考えねばならない.
呼吸器感染症の国民的な話題として新型インフルエンザが挙げられる.A/H5N1のトリインフルエンザからの変異が予想されており,対策としてノイラミダーゼ阻害薬であるタミフルなどの備蓄がなされている.しかし,Aソ連型タミフル耐性ウイルスが話題となった.既存ウイルスの変異に伴い,耐性化した新型インフルエンザの出現が心配される.現在新しい抗インフルエンザ薬がいくつか開発されているが,新型インフルエンザが発生する前に使用可能となることが望まれる.
細菌感染においては,多剤耐性アシネトバクターによる院内感染が今年1月にマスコミで取り上げられた.メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生菌とされるが,MBL産生株の多くは多剤耐性菌である.多剤耐性菌感染症を発症した場合,その治療は困難を極めるため耐性菌を生じさせないことが重要となる.抗菌薬使用と耐性菌発生には関連を認めることより,投与法の工夫としてスイッチ療法,サイクリング療法,ミキシング療法,de-escalationなどが検討されている.また,薬剤としては腎毒性,神経毒性などの副作用によりわが国では使用できなくなったが,多剤耐性グラム陰性桿菌に対しコリスチンが有効との報告がなされるようになった5).肺炎においても耐性化は大きな問題であり,国際化に伴い海外で感染する例も増加してくるものと思われる.しかし,耐性菌の頻度や特徴には地域差を認める.本邦ではペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)を多く認める一方,バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は稀である.韓国ではβ-ラクタマーゼ陽性のインフルエンザ菌は64.7%と高率であるのに日本では8.5%に留まっている6).
最近ではDPC対応の病院が増加するのに伴い,クリニカルパスを用いた検査や治療の効率化が求められてきた.薬剤標準化の考えに基づき抗菌薬の統一を図る病院もみられる.たとえば肺炎にはこのペニシリン薬と決めて他剤を制限する.一見,カルバペネム薬などの制限につながり,正しいようにも思われるが,薬剤の偏りが生じる.耐性菌に十分配慮したパスを作成する必要がある.パスにおいて患者レベルで考えるべき事柄と病棟全体で対応すべき事柄がある.病棟全体でペニシリン系薬を減らすことがMRSAの減少につながるが,個人においてはその使用がMRSA感染のリスクにならない.一方,ニューキノロン薬は病棟全体ではMRSA拡大の要因にならないが,個人ではMRSA感染リスクとなっている7).
耐性菌のトピックスとして,BLNAR(β-ラクタマーゼ非産生インフルエンザ菌)より耐性化が進んだBLPACR(β-lactamase-positive amoxicillin-clavulanate resistant)の報告も認められる8).また,MBL産生の多剤耐性緑膿菌(multidrug resistant Pseudomonas aeruginosa;MDRP)のアウトブレイク9)や,放射線技師によるMDRPの伝播事例の報告も認められる10).また,海外では市中感染型のMRSA(community-associated MRSA;CA-MRSA)感染症が話題となっている11).
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