Japanese
English
特集 拡張期心不全をめぐって
拡張期心不全の病態―生理学的理解
Mechanisms of Diastolic Heart Failure: Physiological understanding
後藤 葉一
1
Yoichi Goto
1
1国立循環器病センター心臓血管内科
1Division of Cardiology, Department of Medicine, National Cardiovascular Center
pp.245-255
発行日 2009年3月15日
Published Date 2009/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404101218
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はじめに:拡張不全と拡張期心不全の違い
臨床的に心不全の症状(労作時呼吸困難,易疲労性など)と身体所見(肺うっ血,低酸素血症,浮腫,肝腫大など)を呈するにもかかわらず,左室収縮機能(駆出率;EF)が正常である患者群が存在することが1980年代半ばから知られていた1,2).最近になり,それらの患者の割合が心不全患者全体の約1/2を占めることが明らかにされ,「拡張期心不全」(diastolic heart failure;DHF),「収縮機能が保たれた心不全」(heart failure with preserved systolic function;HFPSF),「駆出率正常の心不全」(heart failure with normal EF;HFNEF)と呼ばれる3,4).一方,収縮機能が低下している古典的な心不全は,「収縮期心不全」(systolic heart failure;SHF)と呼ばれる.
拡張期心不全という用語が臨床的な病態を指すのに対して「拡張不全」(diastolic dysfunction)という用語は,後述する左室弛緩速度や左室スティフネスなどの指標で評価される左室拡張機能が障害されている生物学的状態を指し,臨床的に心不全を伴っているかどうかは関係ない.たとえば,左室駆出率が正常である肥大型心筋症や高血圧性左室肥大患者の多くはE/A低下,減速時間(deceleration time)延長,左室急速充満速度低下などの拡張機能異常(すなわち拡張不全)を呈するが,臨床的に心不全所見(すなわち拡張期心不全)を呈するものは少ない.すなわち拡張不全=拡張期心不全ではない.
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