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はじめに―心不全の本態と運動耐容能低下の機序
心不全とは,安静時または運動時の心拍出量の相対的または絶対的な減少による自覚症状・身体所見の出現,運動耐容能・生活の質(quality of life;QOL)の低下,そして長期予後(生存率・再入院回避率)の低下を主徴とする臨床症候群である1,2).しかし,運動耐容能〔最高酸素摂取量;peak VO2(PVO2)〕の低下は安静時左室収縮機能(左室駆出率;LVEF)の低下と相関せず,むしろ骨格筋の筋萎縮や筋力低下と相関することから,慢性心不全患者の運動耐容能低下の直接的な原因は左室収縮機能低下よりも骨格筋の機能低下(すなわち末梢機序)にあると考えられている3).この骨格筋の機能低下の原因として,骨格筋の灌流低下や好気的エネルギー代謝異常のほかに,内皮依存性血流増加反応の低下,心不全における炎症性サイトカイン上昇による筋萎縮(心臓悪液質;cardiac cachexia),自律神経機能低下が挙げられている(図1).
また,過度の安静により身体デコンディショニング(筋萎縮,骨粗鬆症,自律神経障害,内分泌障害などの種々の身体調節異常)が生じることが知られており,これにより心不全患者の運動耐容能がさらに低下する.つまり心不全患者の運動耐容能低下の機序として,心拍出量低下,内皮機能低下など心不全の病態に基づく部分と,過剰な安静により生じた廃用症候群という人為的な部分があると言える.
現在,心不全の標準治療とされるアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI),アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)やβ遮断薬の投与によって,生命予後は改善するものの,運動耐容能改善効果は乏しいため,これらの薬物のみで慢性心不全の治療目標を十分に達成することは困難である.一方,これまでの研究により,慢性心不全に対する運動療法には表1に示したように多様な効果があることが明らかにされてきた1-3).本稿では,心不全のうち特に重症心不全に対する心臓リハビリテーションと運動療法の効果と実施上の注意点について概説する.
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