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はじめに
肺線維症の病態は様々な要因からなる肺胞上皮細胞の傷害・アポトーシスに起因し,その過程で様々な細胞から産生されサイトカイン・増殖因子による炎症性細胞の浸潤,線維芽細胞の増殖,細胞外マトリックスの沈着から線維化が亢進される1).肺の伸びやすさは失われ,硬く縮むことによって拘束性肺障害となる.原因が特定されない特発性肺線維症の病理像は「時相の不一致」と呼ばれる線維化に至る様々な段階の病態が混在している通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia;UIP)のパタンを呈することを特徴とする.慢性炎症性肺疾患ではありながらも労作時の呼吸困難を感じてから死亡に至るまでの平均期間は3年以内である.特発性肺線維症患者における急性増悪は気管支喘息や肺気腫といった慢性炎症性肺疾患におけるものよりもはるかに危険度が高いことは日本では30年前からよく知られてきた.欧米では長く認知が遅れてきたこともあってか,いまだに線維化病態が急に悪化する病態と捉えている傾向がある.
こうした複雑な肺線維症の分子病態を理解するために動物モデルが使われ,その肺の線維化反応を形成する過程に関わる細胞やサイトカイン・増殖因子の役割をよく示してきた.もちろん,あらゆることには光と影がある.様々な情報を得た反面,いつまでたっても真の特発性肺線維症の疾患モデルはない.原因が特定できない疾患のモデルなんてもともとありえないし,UIPパタンがそもそも作れない.「所詮マウスはヒトでない」なんてぼやきたくもなろう.様々な疾患モデルのなかにあって最も報告頻度が高いものはブレオマイシン肺である.肺損傷を来した後の線維化病変は特発性肺線維症患者肺にみられるUIPとは異なるものであるが,様々な投与法の工夫によって胸膜直下に線維化病変が分布したり,牽引性気管支拡張がみられたりする(図1).しかし,きれいな線維芽細胞巣(fibroblastic foci)はほとんど認めないし,蜂巣肺もできない.場合によってはやがて自然治癒してどんどん元気になっていくマウスもみかける(図2).こんなマウスでも,その末梢循環血液中にfibrocyteと呼ばれるコラーゲン産生能をもった細胞が特発性肺線維症患者と同様に認められたり,ヒトに対する新しい治療法の根拠を与えたりする.幸いにも詳細な最近の総説2)を得ることができたので多くはそれに準じて述べる.他のいくつかの報告をも引用してはいるものの,やはり私見が入り込むことは避けようがない.また,本来1行1行に根拠となる引用論文をつけるべきであるが,紙面の制限もあり,これもご勘弁いただきたい.
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