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はじめに
現在得られる統計では,全脳梗塞のうち心原性脳梗塞は約20数%を占めるという報告が多い(図1).心原性脳梗塞はその臨床経過としても広範梗塞,高度の脳浮腫や出血性脳梗塞を生じやすく,転帰も他のタイプの脳梗塞より予後不良である.過去には心臓弁膜症に伴う心房細動が心原性脳梗塞の原因として頻度が高かったが,現在では非弁膜症性心房細動が最も多く,心原性脳梗塞の原因疾患として約40~50%を占める1).このような心房細動の罹患率は加齢とともに顕著に増加し,患者の70%は65歳以上で占められている.したがって,今日の高齢化社会で,心房細動およびそれに伴う脳梗塞予防は社会的な要請でもある.
心房細動は加齢に伴いその発生率が増加するが,同時に年代ごとにもその罹患率が増加しており,社会の高齢化,時代という二重の意味でその罹患人口は爆発的に増加している2).1995年当時のアメリカにおける推定心房細動患者が223万人という大きな数字から,高血圧や高脂血症と同様に“common disease”と考えるべきである.さらにこの不整脈は,不整脈自体として問題となるばかりか,この不整脈に付随する脳梗塞発症の危険性増大が懸念される.疫学的には弁膜症を有さない心房細動患者においてさえ,総じて年間3~9%に脳塞栓を発症し2),生涯発症危険率は36%にも上るといわれている1).
このようななか,2001年には欧米,本邦のいずれにおいても相次いで心房細動の治療ガイドラインが発表され,さらにその後,心房細動治療に関する初めてのエビデンスともいえるAFFIRM(Atrial Fibrillation Follow-up Investigation of Rhythm Management)study3)の結果も発表された.また日本では,日本版AFFIRM試験とも言えるJ-RHYTHM試験が行われ,2007年にその結果が発表されている.これらの大規模臨床試験は,心房細動を薬物で洞調律に維持しようとする医療介入では脳梗塞は減少しないことを明らかにすると同時に,心房細動患者の予後規定因子として脳梗塞の予防が最も重要であること,洞調律維持は患者QOL向上が目的であることを明確にした.そして現在,われわれの手にある心房細動血栓塞栓症の有効な予防方法としては,ワルファリンによる抗凝固療法しかないという現実が存在する一方で,この古くから存在するワルファリンは臨床的に使用しづらい点があるのも周知の事実である.特に,循環器内科医の対象は,「いまだ脳梗塞の既往のない心房細動患者」つまり脳梗塞の一次予防が目的であり,神経内科医の対象とする二次予防目的の患者とは若干性格が異なってくる.ここでは,循環器内科医からみた心原性脳梗塞を心房細動という不整脈を基点に概説したい.
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