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私が大学を卒業してから4半世紀以上が経ってしまったが,この間の内科学の進歩は目覚ましいものがあった.生化学や分子生物学の進歩に伴い,疾病の発症を分子レベルあるいは遺伝子レベルでとらえることが可能となってきた.その一方で,医用工学の著しい進歩により,循環器,呼吸器,消化器の分野ではカテーテルや内視鏡が急速に改良され,診断・治療に大きく貢献するところとなった.これらの進歩は内科学全体の発展に大きく貢献したことは疑いの余地がない.しかし,基礎的研究にしても,臨床技術にしてもより専門性が高くなったために,それぞれの技術習得には時間を要するようになった.その結果,第一線病院での臨床技術研修に若い時間の大半を費やしてしまった医師,逆に,学会や論文発表を重視するあまりに基礎研究に偏りすぎ臨床経験や能力を高める訓練がやや疎かになってしまった医師が増えてしまったことも事実である.内科学も臨床的な専門性が高くなったために,大きな大学では内科学が10前後の講座に専門分化している施設も少なくなく,全人的医療の基礎となる内科医師を育成する立場からは行き過ぎた感も否めない.
近頃,循環器病学ではCardiorenal Anemic Syndromeなる言葉が大変注目されている.心不全の症例では腎機能障害や貧血を合併する頻度が高く,これらの要素は悪循環を形成しているというものである.一方,蛋白尿や簡易式で求められたGFR(eGFR)が心血管イベントの独立した危険因子であることが報告された.実際,奈良県立医科大学のCCUに入院した急性冠症候群患者の予後調査をすると,多変量解析の結果,有意な予後規定因子は駆出率ではなくeGFRであった.この結果は,急性心筋梗塞のPCI治療や,心不全に対するRAAS阻害薬やβ遮断薬の有用性が確立されたにもかかわらず,腎機能障害に対する有効な治療法が現在でも確立されていないことの表れとも考えられるが,急性期の循環器の医療が造影剤や利尿剤など,腎臓にとって望まれないものが多いことを考えると,われわれ循環器医に,急性期治療の段階から腎機能を温存することに細心の注意を払うことの重要性を再認識させたことも事実である.
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