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私が熊本大学医学部を卒業した約20年前頃は,医師は大学を卒業しそのまま母校または他の大学の医局に入局した.当然6年生の頃には各医局の先生方の勧誘も強く,私もいくつかの教室の「勧誘会」なるものに参加させて頂いたが,最後は自分の意志と興味と先輩の後押しがあり,循環器内科に入局させていただいた.入局後は大学の教室とその関連病院とで,臨床と研究に対する態度と実地医療の研修を積み,教育は大学での教官の補助,関連病院では後輩へのチューター的な指導,という形で行ってきた.そして適当な頃合い(私の場合は医局の通常方針として,卒業4年目から)を見て大学院に進学し基礎研究をスタートした.このように比較的早期に大学院に進み,31歳頃に卒業すると,それまでには少しばかりの論文(主著や共著)も出来ており,留学への道も身近に感じられたものである.この時点でその後の人生を,より研究に重点を置いた道に進むのか,より臨床に重点を置いた道に進むのかが選択できた.また,この時点(あるいはもっと後)から臨床の第一線に戻っても,頑張れば数年経つと日本のトップクラスになれる.実際に私の所属していた医局から,冠動脈インターベンション分野やアブレーション分野などで,日本のトップクラスになっている先輩や同期,後輩たちをたくさん知っている.一方で臨床もこなしながら,好きな研究も続け,さらに国内・海外留学などを挟んで業績を積み上げ,ついに出身医局から他大学の循環器内科の教授に進んだメンバーが4人になった.
このような仕組みが今,日本中の大学で壊れているように思う.果たして今の体制でよいのであろうか.新臨床研修システムや勤務医師の過酷な労働条件のことである.こう危惧するのは私だけであろうか.いつの間にか「医局=悪」というレッテルが貼られ,学生は欧米並みに卒業時からは入局せず,大学外の指定病院をほぼ自由に選ぶことが出来,最初から臨床一本槍の環境に身を置くことができる.外部病院では一般的に,(一部の病院を除いて)大学病院ほど研究の姿勢は要求されないかも知れない.学会での研究発表や英語論文の作成や投稿も,それほどうるさく言う先生は大学以外にはあまりいないかもしれない.さらに勤務医師の労働条件は年々過酷さを増しており,待遇面での改善も全く考慮されていない.
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