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近年,ALI/ARDSの病態の理解が進むにつれて,ALI/ARDSの治療戦略も様々な面から見直されつつある.本号の特集では,この方面で活躍されている先生方にALI/ARDSの病態と治療について包括的に解説していただいた.
石井芳樹先生は,ALI/ARDSは決して稀な疾患ではなく,日常的に国民の健康に脅威を及ぼし,濃厚な治療が必要なため医療経済からも重要な位置を占める疾患であるとされている.田坂定智先生は,好中球は本来生態防御において重要な細胞であるが,過剰な炎症反応により持続的に活性化される悪循環に陥っているのがALI/ARDS発症の本質であり,そこに生体の自然免疫機構であるToll-like receptorが重要な役割を果たしているとされている.久保裕司先生は,ALI/ARDSには急性炎症期,増殖期,線維化期があるが,これらの病態は経時的に起きるわけではなく,肺全体のみならず1つの肺胞の中でさえ同時に起こっており,組織修復には肺組織幹細胞とともに,骨髄由来幹細胞の関与もあると指摘されている.小谷 透先生は,ALI/ARDSにおける肺保護の基本戦略は肺過進展と肺虚脱の防止であり,そのために低換気量,高い平均気道内圧,低い換気圧などが必要であり,最近,高頻度振動換気が機器の改良によって注目を浴びていると述べておられる.竹田晋浩先生は,ALI/ARDSにおいては,水分バランスをマイナスにすること,血糖調節の厳密な管理のもとに安静時エネルギー消費量の100~120%のカロリー投与を行うこと,感染に対しては感受性のある抗菌薬を早期に十分量使用すること,口腔ケアを十分に行うことが重要であるとされている.小林敦子先生は,ALI/ARDSの治療薬剤として,サーファクタントは有効,NO吸入は一時的な改善効果,部分液体換気法は推奨できず,グルココルチコイドの後期ARDS持続療法は推奨できず,特異的好中球エラスターゼはさらに検証が必要,活性化プロテインCは有効の可能性があるとの評価をしておられる.近藤康博先生は,ALI/ARDSに対するNPPVの使用は一般に挿管人工呼吸より入院期間を短縮し,生存率を改善するとされているが,その効果は原因,重症度により異なり,不適切に行われるとむしろ合併症のリスクを高めるとされている.
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