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はじめに
細胞死の様式はその要因,機構,形態により分類される(表1).アポトーシスはKerrらにより命名された形態学上の用語である1).彼らは,ネクローシス(necrosis, 壊死)とは異なる特徴的な形態変化を来し(図1),炎症反応を伴わない細胞の死を観察しアポトーシス(apoptosis)と名づけた.さらにこれがいわゆる細胞の自然死ではないかと推察した.また,アポトーシスではゲノムDNAが規則正しく(ヌクレオソーム単位で)切断され,DNA断片化が生じる2).今日ではアポトーシスは多細胞生物における不要な細胞の除去機構の基礎であることがわかっている.すなわち,アポトーシスは生理的かつ遺伝子により制御された細胞死であり,細胞の増殖・分化とのバランスの上で,発生・器官形成,正常な細胞のターンオーバー,ホルモン依存性の組織萎縮,免疫系における生体防御機構の確立などの過程において中核的な役割を果たしている.
アポトーシスは細胞死の制御の重要な生理的機構(プログラム細胞死)であり,細胞増殖と対極の意味を有する.したがって,一般的には増殖しないと考えられている最終分化細胞である心筋細胞においてはアポトーシスの関わりは少ないと思われていたが,近年ほとんどあらゆる種類の心疾患の原因あるいは進行にアポトーシスが深く関わっていることが示唆されている.なかでも虚血性心疾患(虚血・再灌流,心筋梗塞)ならびに心不全におけるアポトーシスの意味の大きさが強調されている.急性心筋梗塞における心筋細胞死はダイレクトに心機能障害につながるが,急性虚血性心筋細胞死がネクローシスのみならず一部アポトーシスを介する可能性が報告された.さらに心筋梗塞慢性期においてアポトーシスによる残存心筋細胞の脱落が心室リモデリングならびに心不全の増悪に関与している可能性も示唆されている.拡張型心筋症などの非虚血性心不全の病態形成,進行に関してもアポトーシスによる心筋細胞脱落の関与が報告された.しかし,これら心疾患における心筋細胞のアポトーシスは実は未だ形態学的な証明がない(アポトーシスは形態学に定義される用語にもかかわらず!である)という大きな問題点が残されている.
本稿では,まず実際の心疾患のうち急性心筋梗塞ならびに拡張型心筋症に代表される心不全における心筋アポトーシスの報告の概説と批評を行う.次に実験的に誘導される心筋細胞のアポトーシスの特徴について述べる.さらに,心臓の間質細胞や血管細胞などの非心筋細胞におけるアポトーシスとその意義について触れ,最後にタイプ1プログラム細胞死であるアポトーシスに対してタイプ2のプログラム細胞死と呼ばれるオートファジーの心臓-心疾患における最近の知見を付記する.
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