巻頭言
心筋細胞アポトーシスに関する論争について
竹村 元三
1
1朝日大学歯学部総合医科学講座内科学分野
pp.1025
発行日 2015年11月15日
Published Date 2015/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404205833
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心筋梗塞では大量の心筋細胞死が起こる.病理学の教科書によるとその死の様式は典型的なネクローシス(壊死)である.ところが20年前ウサギの心筋梗塞モデルを用いた実験で急性心筋梗塞巣にはアポトーシスという別の細胞死の混在が示唆され,その後これを支持する論文が続出した.これらは驚きをもって迎えられたが私たちは大いに違和感を持った.
リンパ球や肝細胞などのアポトーシスを電子顕微鏡で観察すると実に興味深い形態を呈し美しさすら感じる.特に核クロマチンは漆黒に凝集し三日月状や馬蹄形を呈し周囲とシャープに隔絶される.細胞質は電子密度が増し暗調である.私たちは心筋梗塞巣でこのような形態の心筋細胞を一度も見たことがなかった.虚血に曝された心筋細胞はふやけて膨化し核クロマチンは千切れて凝固する,すなわちネクローシスであり梗塞巣ではこれがすべてである.また,アポトーシスでは細胞膜は最後まで破れず内容物が撒き散らされず炎症を惹起しない,生体にとっては好都合な死に方であるが,虚血という突発的な事故に曝された細胞が生き残る機構とは逆の自殺死に到る合理性を説明することは難しい.
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