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はじめに―心臓保護と予後の規定因子
心臓病は,本邦において現在死因の第2位を占める疾患であり,その治療は大きな国民的課題である.その内訳において,狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患は,非虚血性心疾患群に比べ症例数がはるかに多く,また勤労者世代の多くに発症してその生活活動および社会活動のレベルを突然著しく低下させる疾患群の代表例であることから,その克服はまさに急務である.さらに虚血性心疾患のみならず,拡張型心筋症や心筋炎,弁膜症などの非虚血性心疾患から進展する慢性心不全は,近年劇的な罹患患者数増加に直面しているものの,未だ画期的治療法が確立されていない点から,それらに対する有効な治療法の確立への医学的・社会的要請は特に大きい.
ここで虚血性心疾患を例にとると,虚血性心疾患の進展を防ぎ,ひいては生命予後を改善するという目的のために考えられる手段としては,一次予防・二次予防的,あるいは心臓機能の予後・生命の予後の観点から総合して,次の4つのアプローチが考えられる.
1) 新たな虚血の発生を根本的に予防するため,その原因となる動脈硬化などの基礎疾患の危険因子を減少させる(虚血発生リスクの軽減).
2) 発生してしまった同じ動脈硬化に対し,冠血流の減少や途絶を防ぐ(動脈硬化巣の進展や急性閉塞の予防).
3) 発生してしまった同じ虚血性心疾患に対し,心筋自体の壊死性障害を少しでも軽減する(再潅流療法および心筋虚血耐性の獲得).
4) さらに発生してしまった同じ心筋の壊死性障害・機能不全に対し,引き続く急性・慢性心機能不全の進行を抑止する(心不全・リモデリングの抑制).
不幸にも心疾患が発症した場合,その心筋組織への障害をさらに最小限にすることが機能予後・生命予後的にも最も望ましいことは明らかである.よって,これらの概念は虚血性心疾患へのアプローチのみならず,特に後者ほど他の非虚血性心疾患やその進展型である慢性心不全にも共通する部分が多いと考えられる.
一方,冠動脈硬化の発生因子,いわゆる「冠危険因子」のうち,加齢や性差などの不可避の要因を除いた喫煙・高血圧・糖尿病および高脂血症などは,その治療によって虚血性心疾患の発生およびその進展を抑制できることが,様々な過去の研究から基礎的・疫学的に証明されている.これらの概念もまた,臨床的にも基礎的にもその多くが,虚血性・非虚血性を問わず慢性心不全にも共通する因子を多分に含んでいる.
ところで最近になり,これらのリスクを是正するためのある種の薬剤が,本来のリスク是正効果だけでなく,薬剤自体の多面的効果(pleiotropic effect)によっても,虚血性心疾患のみならず,慢性心不全でもその病態・予後改善効果を惹起する可能性が提唱され,注目を集めている.例えば,ACE阻害剤は心疾患において,降圧剤としての降圧効果のみならずそのpleiotropic effectが最も早期から明らかとなっているが,現在既に心疾患治療の絶対標準的地位を形成している.それに続いて,長時間型Ca遮断剤などとともに現在殊に注目されている高コレステロール血症治療薬の一種HMG-CoA阻害薬(スタチン)は,係るpleiotropic effectが最も幅広く見出されている薬剤の一種であり,総合的に心臓疾患に対する最も有望な薬剤のひとつとしてその知見が集積しつつある.
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