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動脈硬化症の発症と炎症
従来,心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患は,心臓の栄養血管である冠状動脈の血管壁が肥厚し血管内腔が狭小化し,やがて血流が流れにくくなることで発症すると考えられてきた.しかし,実際の心筋梗塞の剖検例の検討により,冠状動脈責任病変の70%はその狭窄度が50%以下の比較的内腔狭窄の進んでいない病変であることが明らかになった.一方,責任病変の多くには血栓形成が認められた.このことは,狭窄の進んでいない粥状硬化巣(プラーク)もその破裂による血栓形成が引き金となって心血管イベントが起こりうることを示している.このようにイベントを起こす可能性の高いプラークは不安定プラークで,狭窄度が高くてもイベントを起こしにくい安定なプラークとは質的に異なるという概念が最近提唱されている.急性冠症候群(acute coronary syndrome)はこの不安定プラークの破裂が原因であると考えられる.さらに,Libbyらは,冠状動脈の病理組織標本の免疫組織染色より不安定プラークに一致してマクロファージやTリンパ球,活性化した平滑筋細胞などの炎症性細胞が集積していることを認め,不安定プラークの形成に炎症反応の亢進が関与していることを示した1).
また,Ridkerらは,心筋梗塞の発症には総コレステロールの高値,LDLコレステロールの高値よりも,炎症の臨床的指標であるC反応性蛋白(CRP)の高値のほうがより相対危険度が高いということを報告した2).CRPは肺炎球菌の莢膜のC多糖体と反応するβグロビンで,細胞障害や組織破壊を伴う炎症疾患の時に増加する急性反応性物質の一種である.臨床的には各種炎症反応のマーカーとして使われてきたが,最近,従来に比べて極めて高感度で測定できるシステムが開発され,これまで0.03~0.05mg/dl(30-50μg/dl)であった検出限界が1.75μg/dl(米国デイド・ベアリング社資料)まで定量的に測定できるようになった.この測定方法の開発によって炎症反応の推移を極めて敏感に観察できるようになり,未熟児・新生児科領域や感染症における抗生剤離脱時期の決定などに使用されてきたが,最近,循環器領域では,冠動脈イベントとの相関が注目され,すでに,米国ではこの高感度CRP測定法が冠動脈イベントの予後予測因子として臨床的にも注目されている.
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