- 有料閲覧
- 文献概要
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の大規模臨床試験[LIFE,CHARM,VALUE]において新規発症糖尿病の抑制効果が報告されているが,その機序は明らかではない.私見を述べる.まず糖尿病治療薬との類似点に関しては,一部のARBでインスリン抵抗改善薬のチアゾリジンジオン誘導体のperoxisome proliferator-activated receptorγ(PPARγ)刺激作用との類似作用を有しているが,同作用のみですべてを説明するには至らない.次に,現在までに大規模臨床試験で新規発症糖尿病の抑制効果が報告されている薬剤間での共通点を調べる.アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)[HOPE,ANBP2],ARB,Ca受容体拮抗薬(CCB)[INSIGHT,ALLHAT],スタチン[WOS]で抑制効果がみられている.いずれの薬剤も作用点は異なるものの共通点として内皮由来nitric oxide(NO)の増強作用を有している.
内皮由来NOの役割には血流調節,血小板凝集抑制,抗動脈硬化,ミトコンドリア(mt)機能調節作用がある.NOとmt機能に関して歴史を振り返ってみると,1982年にマクロファージがmt機能障害を起こすことが,1990年には酵素複合体I,IIを不可逆的に抑制することが明らかとなっている.このことはマクロファージで誘導産生される高濃度NOが細菌などのmt機能を障害し細胞毒性に作用することを示している.1994年にはendothelial NO synthase(eNOS)由来と同程度の低濃度NOが酵素複合体IV(チトクロームC酸化酵素)を可逆的に抑制することが報告され,内皮由来NOがmtでの酸素消費量を抑制していることが示された.1997年にはACEIは内皮由来NO産生を介して心筋酸素消費量を抑制していることが示されている.これはARB/ACEIの心不全に対する有効性の一部を説明している.2003年には内皮由来NOがmt量の調節を行っていることが明らかとなっている.ここでmtの遺伝子調節について整理してみる.mtはI~Vの酵素複合体で構成され,核DNAと16,569bpのmtDNAとの二つの遺伝子で調節されている.I,III,IV,Vのうちの13サブユニットはmtDNAで,残りの約100サブユニットは核DNAである.最も重要な調節因子としてperoxisome proliferator-activated receptor γ coactivator 1α(PGC-1α)が明らかとなり,その活性化により核DNAではnuclear respiratory factor-1(NRF-1)が,一方mtDNAではmitochondrial transcription factor A(mtTFA)が活性化されmtが産生されることが知られている.さらに2003年,eNOSで産生されるNOがguanosine 3’,5’-monophosphate(cGMP)上昇を介してPGC-1αを活性化しmt量を増加させ,身体のエネルギーバランスを調節していることが明らかとなっている.
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.