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チオレドキシンとは
チオレドキシンは,大腸菌においてDNA合成に必須なribonucleotide reductaseに水素イオンを供与する補酵素として1964年SwedenのPeter Reichardらにより発見され1),その後Arne Holmgrenらによりアミノ酸配列が報告された.1989年,われわれはHuman T cell leukemia virus type-I(HTLV-I)感染T細胞株ATL2の培養上清より精製した成人T細胞白血病由来因子としてヒトチオレドキシンを遺伝子クローニングした2,3).一方,ほぼ同時期にフランスの若杉尋,Thomas Turszらは,Epstein-Barr virus-transformed B cell の産生するautocrine growth factorとしてヒトチオレドキシンを同定した.ヒトチオレドキシンは105個のアミノ酸からなる分子量12kDaの小さな蛋白で,大腸菌からヒトまで保存された-Cys-Gly-Pro-Cys-という活性部位の2つのシステイン基間でジスルフィド(S-S)結合を作る酸化型とジチオール(-SH-SH)の還元型が存在する.還元型は基質蛋白のジスルフィド結合を還元し,自らは酸化型となる.酸化型はNADPH とチオレドキシン還元酵素(thioredoxin reductase)により還元型に戻される.生体内の抗酸化システムとしては,スーパーオキシドジスムターゼ(SOD),カタラーゼやグルタチオン還元酵素などがよく知られているが,チオレドキシンも一重項酸素やヒドロキシルラジカルを消去するほか,ペルオキシレドキシンとの協調作用により過酸化水素を消去する(図1).細胞内にはグルタチオンがmMレベルで存在するのに対して,チオレドキシンはμMレベルしか存在しないため,抗酸化剤としてはグルタチオン系が優位であるが,チオレドキシンはグルタチオンが低下した場合に誘導されるほか,ある種の転写因子に対する還元作用ではチオレドキシンがグルタチオンよりも千倍以上親和性が高く,細胞内シグナル伝達のレドックス制御という観点ではチオレドキシンが重要な役割を演じている3).図2に示すように,チオレドキシンは種々の酸化ストレスにより細胞内で誘導され,抗酸化作用を示すほか,細胞増殖や細胞死のシグナル伝達分子のレドックス制御に関わり,転写因子のDNA結合能を調節することにより他の遺伝子発現を制御している.さらにチオレドキシンは元来細胞の培養上清から精製クローニングされたように,細胞外へ放出され生物活性を示す4).
最近,われわれはチオレドキシンが細胞外からの酸化ストレスに応答して細胞外へ放出されることを明らかにした.さらに細胞外から投与したチオレドキシンが確かに細胞内に入ること5)や,それにはリピッドラフトが関与することなども確認している.
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