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そもそも学会発祥のルーツは,同人会としての結成ではなかったか.ある領域の好き者同士が純粋に議論し合い,それぞれのレベル向上と親睦を目途として研究集団を形成し,やがて学会を創設してその学会自体および学会員の地位の向上を目指した.そこでは,その会の独立した専門性が社会および同僚から認知されることに精力が注がれ,必然的に当初は学会内および他の専門学会との利害調整が活動の中心となったであろう.学会が果たす役目として,会員自身の研究レベル向上と後進の育成を図る教育が主要な事業であるが,次第に社会に開かれた集団として国民への貢献という一般に対しての責務が謳われるようになった.ことに臨床医学会では定款にこうした学会の役務が書き込まれる事が多く,“もって国民,医療のために”云々というくだりが入れられることとなった.学会内組織は,学会本体や学会誌,学術集会の運営に係わる委員会のほか,ガイドラインの作成や用語の制定など学会内外への広報を目的とする委員会,医療制度や専門医に係わる委員会,禁煙運動のように社会とともに進める部隊など多様性に富んで来つつあるようだ.EBMが盛んに喧伝される今日では,種々の学会提唱ガイドラインは診断・治療の規範として不可欠のものとして認識されて普及しているし,学会員の手によって種々疾病の学問的解説が学会ホームページに掲載され,患者の受診教本となっている.こうした,学会員向け,医師向け,そして一般市民向けと幅広い対象を考慮した学会広報活動が,今や常識化してきている.一方,学会が文科省管轄下の法人であればその指示下に準ずる行動は少なからずあり,また厚労省からの依頼などで学会が主体的な活動を受託する場面も増えてきているようだ.これは,社会の中の学術団体として相応の役目を担うに至ったと評価すべき事だろうが,個々の事例については学会員の真摯な議論を通じて活動方針を決定すべきであって,科学的学問的以外に他のいかなる圧力をも受けるべきではない.
平成14年4月に厚労省が医療広告規制を緩和し,学術団体が認定する専門医の広告を一定の条件下で可能にしたことを受けて,各医学会で専門医制度が大きな関心事になっている.専門医の多寡を誇ることが学会の優位性を示すものではないが,専門医は単なる学会の自主的資格という位置づけ以上に,医療を受ける患者側の視点での社会的な認知が進んできている事も事実だ.専門医とは,その領域において高度で優れた専門的な知識と技能を有し,質の高い医療を実践できる医師のことである.そもそも専門医なるものの考え方が生じた根本はただ一つ患者のためであり,この視点を欠落させては全く不毛の議論となる.つまり,患者に自らの専門責任範囲を明示し,受診に際しての判断基準として,良質で安心のできる医療を提供できる能力を有することを情報開示せんとするところが基本の考え方であり,そのためにこそ専門研修を経て,確立された学習到達目標を制覇し,第三者的評価を得て認知された専門医でなければならない.本来,専門医の種類や数は学会が恣意的に定めるものではなく,社会が必要に応じて定めるべきものであろう.枠組みはともかく当面は,個々の能力評価についてpeer reviewの歴史を有する学会こそが,適正な評価を下してその資格を認定するという専門学術団体としての役割を主体的に分担すべきだと考える.能力資格試験の側面から,その領域専門医は毎年何人必要か,どの程度の臨床研修,経験症例数が必須かなど真の腕前の規定を前面に出した社会的資格試験の側面を,いずれ学会自らが考慮せざるを得なくなってこよう.一方,高資質の医療提供であるからには診療報酬に反映すべきとの期待が医師側に高まるのは当然ではあるが,医療全体の外形が改革されない限り,医師が満足できる体制への道は遠いかも知れない.
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