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わが国は世界一の長寿国である.戦国時代は人生50年であったのに比べ,現在の平均寿命は女性約85歳,男性約78歳と飛躍的に伸びている.各動物種には固有の最大寿命のあることが知られており,イヌは20年,ヒトは120年とされている.ヒトは誰でも「健康で長生き」したいという欲求を持っている.不況の社会にあっても,「美容」と「健康」に関連した企業は強いといわれている所以である.平和で豊かな高齢社会になったせいであろうか,最近,「抗加齢医学」(anti-aging medicine)という文字がよく目につくようになった.老化はなぜ起こるか? 遺伝的早老症が実在することより,遺伝子が関与していることは確かである.しかし,一般的に老化は遺伝要因より生活習慣といった環境要因のほうが大きく影響すると考えられている.非遺伝子説で最もよく研究されているのが「酸化ストレス説」である.ヒトは酸素を利用してミトコンドリアでエネルギーを産生するが,その過程で活性酸素を発生する.活性酸素は細菌などを消化する際にはプラスに働くが,DNAを損傷するパワーも有するのである.もちろん,生体にはSOD,カタラーゼ,ビタミンA,C,Eなど,活性酸素を消去する機構が備わっているが完璧ではない.DNAの損傷により細胞死が生ずれば,それを補うために細胞は分裂(新生)し,テロメアが短縮していく.テロメア長の変化はP53遺伝子の活性化を促し,細胞分裂が抑制され種々の老化徴候が現れる,という説である.この説は,線虫やショウジョウバエなどでの抗酸化能と寿命との関係を調べた研究結果より,広く受け入れられている.
抗加齢医学の目指すところは,病的老化現象の進行を予防し,「元気で長生き」をもたらすことである.抗加齢医学では,1)「ホルモン療法」と2)「抗酸化作用を有する物質の摂取」の研究が盛んに行われている.1)のホルモンとしては,副腎から分泌されるdehydroepiandrosterone-sulfate(DHEA-S)が注目されている.このホルモンは,20歳をピークに以後加齢とともに直線的に低下していく.DHEA-Sの免疫賦活作用,抗糖尿病作用,抗骨粗鬆症作用,抗動脈硬化作用,抗肥満作用などが報告されている.副作用については明らかではない.この他,松果体ホルモンであるメラトニンも注目されている.メラトニンの中心的作用は睡眠の維持であるが,抗酸化作用や免疫賦活作用も報告されている.これらのホルモンは,現在米国ではfood supplementとして扱われている.
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