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はじめに
特発性肺線維症を含む各種の間質性肺炎患者の肺組織にはフィブリンの異常沈着が認められ,これらの疾患における病理学上の際立った特徴の一つとして挙げられるようになった.正常な肺組織では凝固系活性をほとんど認めず,ウロキナーゼを中心とした線溶系が優位な環境であることを考慮すれば,異常なフィブリンの沈着は,この凝固線溶系の恒常性が間質性肺炎の肺組織において破綻していることを意味する.すなわち,凝固系活性が亢進している,あるいは線溶系が抑制されている,もしくはその両方の状態が発生しているのである.特発性肺線維症患者の肺組織においては,凝固系活性のトリガーとなる組織因子(第III因子,tissue factor;TF)とともに,最も重要な線溶系抑制因子であるplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)の強発現も示されており,凝固系の亢進とともに線溶系も抑制されていることが示唆される1,2).同様の現象は,動物を使った肺線維症モデルにおいても認められるとともに,これらの肺線維症モデル動物に対する凝固系の抑制あるいは線溶系の亢進を目指す治療が肺の線維化を制限するという研究成果も数多く報告されている.これらの点を踏まえれば,間質性肺炎に伴って発生する肺の線維化には,凝固系の亢進と線溶系の抑制が強く関与しているという事実が明らかとなり,間質性肺炎・肺線維症の治療手段として抗凝固あるいは線溶療法を応用しうる可能性が示唆されるのである.
本稿では,間質性肺炎・肺線維症における凝固系,線溶系の関与について,そして主として動物実験における研究成果を基に間質性肺炎・肺線維症に対する抗凝固・線溶療法の可能性について概説する.
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