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スシとサシミに思わずにんまりとし,しぼんだバルーンが足元に絡んでしばらく動けない身に同情し,六千万キロ離れたところでの出来事にハラハラどきどきしながら,夢をかきたてられる探査である.とうとう火星にかつて水が存在したと考えられる非常に確からしい証拠を発見したという.われわれ生命体の起源に関する現実ともサイエンスフィクションとも区別のつかぬような,また新たな発想をもたらすものである.まさに,優れた着想,周到な長期計画,そしてチームプレイの偉業といえる.
さて,肺癌の集団検診を例に今後の慢性疾患対策を少し考えてみよう.肺癌検診は老人保健法のもとで1987年から全国的に実施されてきたが,1997年に補助金は一般財源化されて,その実施は各自治体に任されるようになった.また,肺癌検診の評価に関する厚生労働省研究班報告によると,現行の胸部写真による検診は全国的に肺癌による死亡率を低下させているという証拠は少なく,新たな方法論の開発と検証が必要とされた.実際に検診発見肺癌のうち早期肺癌は半数に達しないことなどから胸部写真という方法論自体も見直す必要が生じている.さらに地域ごとにみると検診受診率や精査受診率が極めて低い地域があることなどから,都道府県における検診の精度管理という面でも,改善すべき部分はたくさんある.何が起きても不思議といえない現代では,安くて質の悪い検診が普及する事態も危惧される.従来の結核など伝染病スクリーニングによる集団防衛から,最近では,生活習慣病のスクリーニングによる個人防衛を目標とし,集団検診も無料から有料へ,会員制の人間ドックなどもビジネスとして広がっている.検診への公共資金の投下はむしろ縮小するものと思われる.検診に関する責務を放棄する自治体もある状況では,検診企業の自己管理に任せるのではなく,一般市民に対して,関連学会などの組織が,検診の適切なあり方を示し,各地域の精度管理体制を充実させるべきであろう.
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