- 有料閲覧
- 文献概要
今から27,8年前であろうか,臨床講座から意を決して基礎医学講座の門をくぐろうとしていた時のことを思い出す.1975年4月に大学院に入学し恩師河合忠一教授から基礎医学を十分に学びその考え方を臨床に取り入れるようにとのご命令であった.生化学を選んだが,だれにコンタクトを取ってよいものやら全く分からず,医化学セミナー室で行われているランチョンセミナーの末席に参加して,よく質問される人の良さそうな先生に相談することにした.後に京都大学の医学部長をされた中西重忠先生である.
河合教授からは,“臨床的には心不全が問題であるが,心肥大が疲弊して,やがて心不全に移行するので,まずは心肥大の研究をしたら”とAlpertのCardiac Hypertrophyを読むように勧められた.読むことは読んだが,ターゲットになる分子が何であるかという時代まで行っておらず,これは大変だと思っていた.事実,このテーマは最近急速な進歩がなされつつある.そこで,当時の中西助教授に相談となったが,先生はじっくり,まず生化学的考え方を身につけるようにと沼正作教授をご紹介いただいた.テーマはACTH前駆体m-RNAの精製とその構造決定であった.33,000の分子量の前駆体から4,500の分子量のACTHができるので,何か未知のホルモンが存在するのではというわくわくするテーマであった.牛の中葉にACTH前駆体m-RNAが30%であることを見出した先輩,泰井先生のお蔭で3倍精製したら終わりである.その頃,アメリカからOrth博士が京大で講演された際,すでにアメリカでACTH前駆体m-RNAの精製がなされ部分構造決定がされたという話しをされた.その帰り道,近衛通り(この通りを北に越えると大変だ!! と臨床の連中が言っていた通りだが!)で雨の中傘を差したまま全員(といっても4名であるが)ショックで沈黙であった.その時,沼教授がこれは単なる噂に過ぎない,論文を見たわけでもないし,われわれは30%からの精製だからアドバンテージがある.また彼らは,AtT20というマウスの細胞株だからサンプル集めが大変で容易に精製ができないから,ともかく無心で頑張れ!! という指令であった!! 正解であったが,のちに北さん“努力は無限ですよ!”というお言葉もいただいたのを記憶している.
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.