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物事に対する価値観が変わることは歴史的にみても時折生じることである.例えば,“天動説”から“地動説”への転換もその一つであろう.宇宙の中心が地球であるという“天動説”は16世紀まで宗教上の世界観として常識であったが,科学的根拠に基づいてコペルニクスらが“地動説”を説いたことは衝撃的であったと考える.
さて,消化管領域においても,今まさに価値観が変わろうとしている事案がある.それが,ここ十数年注目を浴びてきた大腸鋸歯状病変(個人的には鋸歯状病変群とすべきと考える)である.2010年版のWHO分類1)では大腸鋸歯状病変には過形成性ポリープ,SSA/P(sessile serrated adenoma/polyp),TSA(traditional serrated adenoma)およびSSA/P with cytological dysplasiaがあるが,中でもSSA/Pはboot様,逆T字と言われる腺底部拡張,異常分岐像などの特徴的病理組織学的所見を病変全体の10%以上に認める病変であり2),遺伝子学的にBRAF変異と高メチル化(CIMP-high)を示しMSI(microsatellite instability)陽性大腸癌の前駆病変(precursor lesion)として考えられている3).実際の臨床現場において,SSA/Pは特徴的な拡大所見を有した粘液で被覆された病変として認識され,SSA/Pを背景に伴った癌化症例が認められ4)5),また経時的に癌に至った症例の報告もなされている6).以上の結果より,adenoma-carcinoma sequence,de novo発癌に次ぐ第3の発癌ルート“serrated neoplastic pathway”としてSSA/Pの認知度は大いに高まった.このpathwayではSSA/Pの起源が過形成性ポリープと示唆されている背景や,SSA/Pと過形成性ポリープの鑑別が困難になってきたことを理由に,2019年版のWHO分類7)ではSSA/Pの名称をSSL(sessile serrated lesion)に変更したばかりではなく,過形成性ポリープのうち拡張腺管が1つでもあればSSLとするという定義に変更した.
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