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「胃潰瘍は変わったか─新しい胃潰瘍学の構築を目指して」と題する本特集は春間,赤松,長南の3人が担当し企画した.春間が序説で述べているように,本号では,H. pylori陽性潰瘍が激減している状況下で,H. pylori関連胃潰瘍と吻合部潰瘍,common diseaseとなった薬剤起因性胃潰瘍,徐々に増加しているH. pylori除菌後の胃潰瘍と非H. pylori・非薬剤性の胃潰瘍,さらに胃潰瘍の将来像を考えるうえで重要な小児の胃潰瘍などについて,13名の先生方に鋭意執筆していただき,充実した内容となった.はじめに,太田らには「胃潰瘍の病理学的温故知新」と題して執筆していただいた.①胃潰瘍の臨床病理学的特徴や組織像,②H. pyloriに関連した背景粘膜,③H. pyloriと並んで現代の胃潰瘍の2大原因とされるNSAIDs潰瘍,④さらに近年知られるようになったPPIによる胃粘膜の変化について,病理の立場からわかりやすく述べられている.外山らには「H. pylori関連性胃潰瘍」を執筆していただいた.男性,無症状,単発,類円形,胃角部小彎/胃体上部後壁の潰瘍が多いこと,すべての潰瘍が内視鏡的萎縮境界近傍とそれより萎縮領域で発生しており,萎縮の進展と潰瘍の発生部位に密接な関係があること,さらに出血リスクおよび治療の適応評価についてはスコアが有用であることが述べられている.小野らには「H. pylori除菌後の胃潰瘍」を執筆していただいた.除菌後再発の原因として,①H. pylori再陽性化,②薬剤性潰瘍(NSAIDsなど),③特発性潰瘍の3つが挙げられ,潰瘍再発時のH. pylori再検査,服用薬確認など誘因検索の重要性が述べられている.鎌田らには薬剤起因性胃潰瘍の代表である「NSAIDs起因性胃潰瘍の臨床的特徴と治療」を執筆していただいた.NSAIDs潰瘍は胃前庭部に好発し,多発性で出血性潰瘍が多いこと,H. pylori感染者ではNSAIDs潰瘍が発生しにくいこと,消化性潰瘍診療ガイドライン2015(改訂版)ではNSAIDsの中止が不可能な場合はPPIあるいはプロスタグランジン製剤の投与が推奨される一方で,H. pylori除菌を行わないよう提案されていることが述べられている.菅野らには「非H. pylori・非薬剤性胃潰瘍」を執筆していただいた.種々の原因を除外した非H. pylori・非薬剤性胃潰瘍(特発性潰瘍)は胃前庭部に多くみられ,特に動脈硬化性疾患を複数持つ患者がリスクとなり,難治性・易再発性であること,災害時ストレスは胃潰瘍発生の独立した原因因子となり,胃体部に多く多発性で出血しやすいことなどが述べられている.中山には「小児の胃潰瘍」を執筆していただいた.小児でもH. pylori感染とNSAIDs潰瘍が主因であるが,それ以外のさまざまな原因による急性二次性の発症が多いこと,急性胃粘膜病変はH. pylori初感染の場合があることなどが述べられている.野村らには「吻合部潰瘍」を執筆していただいた.胃癌術後長期生存例の増加に伴い,胃粘膜萎縮が進み,かつ低酸のことが多く,吻合部より近位の“広義の吻合部潰瘍”が増加していること,H. pylori陽性の場合,時に除菌療法が効を奏することなどが述べられている.
中村らには「Helicobacter heilmannii感染による胃潰瘍」を執筆していただいた.胃十二指腸潰瘍があるにもかかわらず,H. pyloriが培養陰性あるいはウレアーゼ活性陰性か弱陽性の場合はH. heilmannii感染を考慮する必要があることなどが述べられている.
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