- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
1994年当時,所属していた施設状況により消化器を専門とするように辞令が出て20年が経過した.研修医時代から「早期胃癌研究会」に参加する機会に恵まれていたが,当初は一聴衆として参加するだけで発言する機会などは皆無であった.本誌「胃と腸」についても医局にあるものを興味が向いたときだけ拾い読みする程度であった.その後,消化器を専門としたのを機に,研究会に定期的に参加したり,雑誌を定期購読したりするようになり,次第に自分の診断学向上に占める「胃と腸」の重要性が増していくこととなった.「胃と腸」や専門書にて予習し,浅薄な知識を増やしたうえで学会や研究会に臨み,実臨床に戻ると再び雑誌で復習するという日々は,諸先生方と同様の歩みであろう.
20年来読み続けている本誌から1冊を推薦せよと言われても困るというのが正直な想いだ.2000年以降はESD手技の習得,その標本を基にして胃や食道疾患の拡大内視鏡所見と病理の対比に没頭した.また,小腸検査の発展時期でもあり,小腸疾患に興味を注ぐ時期もあった.その中であえて1冊と言われれば「炎症性疾患(IBD)の上部消化管病変」第42巻4号(2007年)を挙げたい.小生が卒業した1990年代,Crohn病やBehçet病での食道病変や胃十二指腸病変は諸家の研究により,研修医においても習得できた知識である.特に前者での,縦走配列する食道多発潰瘍や,胃上部小彎の“竹の節状外観”,十二指腸におけるKerckring皺襞上のノッチなどは特徴的である.しかし,本特集号において多数例が集積された“潰瘍性大腸炎における上部消化管病変”は,“潰瘍性大腸炎は(backwash ileitisやpouchitisを除き)大腸に限局する炎症性疾患”という従前までの概念/定義を覆すものであり,不学の小生には衝撃であった.その後,偶然にも間を空けず本疾患に合併する胃病変を3例経験したときは膝を叩く思いをした.それらを論文発表できたことにより,小生にとって本特集は忘れ得ぬものとなった.全大腸炎型や臨床的重症例だけではなく,臨床的軽症例や直腸炎型,大腸全摘後例にも合併することは本疾患への認識を新たにした.加えて,組織学的所見も大腸病変と上部消化管病変との間に類似性があり,自らが納得する結果であった.今後,症例の集積により潰瘍性大腸炎の疾患概念が変更される期待感も禁じ得ない.
![](/cover/first?img=mf.1403200503.png)
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.