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書評「臨床のための疫学」
川井 啓市
1
1京都府立医科大学
pp.754
発行日 1986年7月25日
Published Date 1986/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403113512
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なかなか,味わいのある著書である.近年において,疫学の重要性が認識されてきている.しかし,残念ながら多くの臨床家にとって疫学はまだ身近なものとはなっていないようである.訳者も序文の中で述べているように,臨床家が疫学者に対して不信感を持っていたり,逆に疫学者が臨床研究に対して一種のいらだちを感じているのが現状である.
経験を積んだ臨床医に役立つ疫学は人間集団を対象とした研究の方法論を体系化したものであり,臨床医学の基礎科学とも言えるものである.しかし,日本の多くの臨床家は今まで疫学を学ぶ機会にはあまり恵まれていなかった.幸いに,本書は医学生だけでなく,病院のレジデントや十分に経験のある臨床家を対象にして著述されている.臨床家にとって身近な題材を用いて,疫学の考え方を理解しやすく説明している.全編を通じて強調されているのは,“偏り(バイアス)”と“偶然(チャンス)”という概念であり,また,この2つが人間集団を研究する疫学を理解するうえでのキーポイントとなっている.頻度やリスクといった疫学に特異的な項目だけでなく,予後や治療といった臨床家に密接な項目についても説明が加えられており,有用な知識を提供している.
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