胃と腸ノート
興味ある胃病変の病理解説(10)
下田 忠和
1
,
佐野 量造
1
1国立がんセンター研究所第1組織病理
pp.1304
発行日 1975年10月25日
Published Date 1975/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403112215
- 有料閲覧
- 文献概要
症例14 64歳 男(伊勢市民病院 中野氏例)
幽門輪に接して,これを全周性に取り巻く胃壁の硬化と,粘膜の深い陥凹および潰瘍が認められ臨床的にボルマンⅢ型癌と診断された(Fig. 1).しかし,手術時に良く観察したところ幽門部より胃体部の切除線にいたるまで胃粘膜の退色がみられ,しかも胃壁は全体に肥厚し水腫状で“こんにゃく”を握るようであったという.組織学的に検索すると幽門部は硬化した進行癌であったが,変色した粘膜固有層にはⅡb型様に未分化型腺癌の浸潤があり,それ以下の胃壁全層には切除線部まで著明な癌細胞のリンパ管内浸潤がみられた(Fig. 4).この部分はFig. 3に示すように肉眼所見と一致して胃壁のfibrosisはほとんどみられず水腫状の肥厚を示していた.すなわち,本例はびまん性癌であるが,通常経験される胃壁の硬化を来したびまん性癌とは異なり,その前段階の水腫期に相当する例である.
Copyright © 1975, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.