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Ⅰ.はじめに
胃の多発性潰瘍については,従来X線診断学の立場から,間接徴候として種々の胃変形が明らかにされ,二重造影法による瘢痕や浅い潰瘍の診断の進歩と相いまって,この種の病変に関する多数の知見が報告されている1)2)3).
内視鏡的立場からは主として胃カメラによる成績に基づき,多発性潰瘍の間接徴候,胃内分布様式,経過などが論じられている4)5)6)7)8)9).多発性潰瘍の内視鏡診断においては,X線検査との方法論的差異から,多少関心が異なっている面もある.X線検査では間接徴候として種々の胃変形,ことに胃の縦軸に沿った変形が重視されるのに対し,内視鏡では間接徴候は主として胃の横軸に沿った変形が問題となり,これらは浅い潰瘍や瘢痕を見出す重要な示唆を与える所見ではあるが,最終的には直接徴候を直視下に確認することがより重要である.すなわち粘膜面の色調や表在性の変化を直接観察しうる内視鏡では,間接徴候よりは個々の潰瘍ないし瘢痕をいかにして洩れなく発見するかという問題が大きい.
胃内視鏡におけるファイバーガストロスコープ(FGS)の導入およびその後の器械の改良進歩により,胃内観察盲点はほとんど克服されたばかりでなく,近接拡大観察による微細診断能が著しく向上した結果,多発性潰瘍の内視鏡診断は一層確実性を増したものといえよう.しかしながら,主病変の観察に関心が奪われて,他の部位の観察がおろそかになり,浅い瘢痕などを見逃す危険は必ずしも少なくない.Ul-Ⅱの潰瘍瘢痕が内視鏡的にどの程度確実に診断しうるかは別として,瘢痕をも含めて多発性潰瘍をできるだけ見落しなく診断するためには,1例1例胃内各部位の入念な動的観察が必要であると共に,種々の多発性潰瘍の好発部位に留意した観察が必要である.
そこで本論文では,FGSにより観察した多発性潰瘍について二三の臨床的考察を加え,その特徴を幾分でも明らかにすると共に,これを内視鏡診断にいかに活用しうるかを検討するつもりである.
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