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第38回日本消化器内視鏡学会総会は11月22,23,24日の3日間にわたって,虎の門病院副院長福地創太郎先生を会長に,京王プラザホテル(東京都新宿区)で開催され,盛会裡に終了した.今回の総演題数は600題を超え,シンポジウム4題,パネルディスカッション4題,実技ワークショップ5題,更に特別講演,招待講演各2題,教育講演6題と多彩なプログラムであった.各会場は参会者で溢れ,連日活発な討議が行われた.以下,筆者らが回りえた範囲で若干の印象を述べてみたい.
第1日のメイン会場はシンポジウムⅢ“大腸癌の発生と増殖過程”で幕が開いた.最近,大腸癌の組織発生についてはde novo説が注目されているが,polypcancer sequence説との論争の大部分は組織診断基準の問題にすり替わってしまった感があった.しかし,工藤氏は腺腫成分を全く伴わないⅡc,Ⅱb型の微小癌から陥凹型進行癌までの連続性を実例をもって示し,大腸癌のde novo発生のルートを見事に解明した.このことは,大腸癌の組織発生に関する不毛な論争に1つの終止符を打ち,今後の課題がⅡc,Ⅱb型早期大腸癌の診断にあることを雄弁に物語るものであろう.しかし,実際はⅡc型やⅡb型早期癌を“morbus kudous”と椰揄したくなるほど,工藤氏以外の施設では症例報告のレベルにとどまっている.この状況は二十数年前,わが国で数多く発見された早期胃癌を癌として認めなかったり,日本の風土病として片づけようとした欧米の状況と酷似している.セッションの中で岡本氏が指摘したように,発赤や褪色所見を見た場合は,標本の取り扱い(実体顕微鏡下での切り出し)を含めて,きちっとした追試を行うべきなのであろう.また,最後に司会の武藤氏が追加されたが,最近の分子生物学の進歩を考えれば,この種のテーマが腫瘍遺伝子,増殖因子のレベルで語られる日も近いと思われる.微細な形態学的変化を機能の面から説明することにはまだ幾つもの困難性があろうが,将来に向けて問題点を整理しておくうえで,1つのインパクトが与えられたセッションであった.
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