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書評「胃癌の構造」第2版
谷口 春生
1
1大阪府立成人病センター
pp.70
発行日 1991年1月25日
Published Date 1991/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403102434
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名著「胃癌の構造」第2版が刊行された.一昔前,胃癌の組織発生について,“未分化型癌”は胃固有粘膜から,“分化型癌”は腸上皮化生粘膜から発生するという中村博士の大胆な仮説が病理学会において発表された.評者も次演者席で拝聴していた.故滝沢延次郎教授から,少し無理な説ではなかろうかと発言されたことが想起される.「胃癌の構造」初版が上梓されてから既に8年,その間,著者自身の業績はもとより,病理形態学者を含め,胃癌診療に携わる多くの人達の研究,特に時系列を加味した症例の積み重ねによりその仮説が実証され,現在では学説として絶大な支持を得ている.胃癌研究会においても,中村分類を胃癌組織の2大別分類の便に供することが検討されている.
従来から病理形態学者は組織切片上に見られる形態変化を平面的にのみ把握する嫌いがある.「胃癌の構造」初版に際しても評したことであるが,癌研病理の時代から中村博士は,外科的切除材料を余すところなく切り出して組織標本に作製する,という大変な努力を重ねて病変を立体的・三次元的に解析,更に微小胃癌から進行胃癌に至る時間の経過や,時間の経過に伴う胃底腺退縮などを踏まえた四次元的考察を加え,説得力に満ちた“胃癌の構造論”が展開されている.そこには中村教授の主張と哲学が脈々と流れ,第2版に受け継がれている.
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