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書評「Helicobacter pyloriと胃炎・胃癌」
寺野 彰
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1獨協医科大学第2内科
pp.884
発行日 1996年6月25日
Published Date 1996/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403104173
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生活様式の西欧化に伴いやや減少傾向にあるとはいえ,胃癌はいまだに日本人の死因のうちトップクラスにある.その成因として萎縮性胃炎-腸上皮化生-胃癌というsequenceが推定されてはきたものの,その前提となる萎縮性胃炎の原因すらいまだ明らかではない.
ところが,1983年,オーストラリアのWarrenとMarshallにより,胃内に棲息するHelicobacter pylori(H. pylori)が発見され,消化性潰瘍,慢性胃炎との関連性が提案された結果,これらの疾患の研究は革命的転換を遂げることになった.更に1994年,WHOではH. pylori感染を胃癌のdefinite carcinogen(group 1)と判定し,H. pyloriと胃癌との関連を積極的に認定した.これらの世界的動向の中で,いまやわが国でもH. pyloriは消化性潰瘍のみならず,慢性胃炎,胃癌の原因であるとの認識が深まりつつある.しかしながら,このような結論に至るためにはまだまだ多くの克服すべき問題点が横たわっている.すなわち,H. pyloriの細菌学的特徴,胃炎,胃癌とH. pyloriとの疫学的因果関係,病理学的,遺伝子学的検討,そして何よりもその発生のメカニズムの研究など膨大な内容であり,巨大なジグソーパズルを前にした当惑に似たものを感じる.
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