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この本の共編者は2人とも,私と強いつながりを持っているので,書評をする私は大きな弱味を持っている.できれば,一般の臨床医の立場に立って読んでみたいと思ったが,この私に“平均的な消化器病医”の水準がわかるはずがない.このごろは,消化器の学会・研究会などいたるところで,Helicobacter Pytori(以下H. Pylori)の講演・シンポジウムが行われていて,既に水準の低い企画などそっぽを向かれている.その点,H. Pyloriの理解に必要な最新知識は網羅したにもかかわらず,あえて主題を胃炎・胃癌に置いたことをまず評価したい.正確な視点であり,最も適した編者であったと言えよう.冴えた頭脳を持ち,健筆でも知られる木村健教授を今更ここに紹介しないが,榊信廣博士はもと山口大学第1内科におり,木村教授と同様に胃炎の内視鏡研究を得意としていて,かつ早くからH. Pyloriの研究を手がけた人である.榊信廣博士が論文を書く様子はそう器用とは言えないが,評論家であった唐木順三が
かつてみずから書いたように“読んでは書き,書いては考え,考えてはまた読む”という執筆ぶりを通した人だ.
このH. Pyloriの本も,唐木のいった“鉱脈発掘作業”にも似て,H. Pylori研究の最終目標に向かっていかに独自の道を歩むか,H. Pyloriと胃炎・胃癌との関連を明白に証明するために今後どのような追求が必要なのか示したものである.彼らの,永く日本の胃炎・早期胃癌の内視鏡研究を勉強してきたという重い使命感が,このH. Porlori研究の最大鉱脈への挑戦ルートを模索させ,見事なこの本を編ませたものと受け止めている.みずから外国のH. Porlori研究者が持っていない視点に立っていて,日本の今後のH. Pylori研究のありかたを明確に示していると重ねて書いておこう.力作である終章の“H. Porloriと胃炎・胃癌―将来の展望”は,欧米追従に終始した業績の多いわが国の研究への正に警世の文でもあろう.
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