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はじめに
上皮性腫瘍の粘液形質については,かなり古くから研究がなされており,組織化学的染色法として,過ヨウ素酸Schiff(periodic acid-Schiff;PAS)染色,アルシャンブルー(alcian blue;AB)染色,高鉄ジアミン(high iron diamine;HID)染色,HID-AB染色などがあるが,これらについては多くの成書に詳しく記載され,また,数多くの総説論文でも取り上げられているので,本稿では,粘液の主成分であるムチンの免疫染色による消化器腫瘍の粘液形質の解析について述べる.
筆者らは,1990年代初頭に,1番のムチンコア蛋白(mucin core protein 1;MUC1)と2番のムチンコア蛋白(MUC2)に対する特異抗体を用いた免疫染色でヒト膵腫瘍の検索を行い,浸潤性に発育し極めて予後不良な浸潤性膵管癌(invasive ductal carcinoma;IDC) ではMUC1が陽性でMUC2は陰性であるが,一方,膨張性に発育し比較的予後良好である膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;IPMN) ではMUC1は陰性でMUC2が陽性であるという極めて対照的な発現がみられることを世界に先駆けて報告した1)(Fig. 1).その後,1990年代後半になって,胃型ムチンのMUC5ACやMUC6を検出する特異性の高い抗体が市販されるようになり,消化器腫瘍における粘液形質が幅広く検索されるようになった.
本稿では,まず,ムチンについて概説し,消化器腫瘍の新しい予後因子として注目されているMUC1とMUC2,ならびに,最近,筆者らが見い出した普遍的予後不良因子であるMUC4の発現とその意義について述べる.引き続き,次回稿において,MUC1,MUC2,MUC4の各ムチンの遺伝子発現機構について解説した後,胃と大腸の腫瘍における胃型ムチン(MUC5ACやMUC6)と腸型ムチン(MUC2)の発現についてその概略を解説する.
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