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はじめに
本邦でも潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)の罹患率が増加しており,その合併症としての大腸癌(colitic cancer)の早期発見と治療が臨床的課題となっている1).従来より欧米では,colitic cancer早期発見と治療のための内視鏡的サーベイランスが行われてきているが2),近年本邦でも,欧米の方法に準拠しつつも,内視鏡的狙撃生検を用いた独自のサーベイランスプログラム3)が考案・施行されている〔主題の樋田論文(1335頁)を参照〕.内視鏡的サーベイランスの最終目標は,生検で発癌早期の腫瘍(粘膜内癌もしくは前癌病変)を診断することにある.したがって,サーベイランスの成否や精度が,生検組織の病理診断に左右されることは論を待たない.
UCの大腸粘膜には種々の異型を示す炎症・再生上皮が存在し,それらと発癌早期の粘膜内腫瘍とを鑑別することは困難なことも多い.欧米ではUCの発癌早期病変をdysplasiaと呼び,その診断ガイドライン(炎症・再生異型上皮との鑑別点や異型度分類基準)が提示されてきた(dysplasia分類4)).しかし,dysplasiaの病理診断の再現性は,必ずしも高くないことが指摘されている5).一方本邦では,消化管腫瘍の病理診断基準が欧米とは異なることから,UC粘膜に発生する異型上皮に対して独自の病理組織分類が提案されている(厚生労働省研究班分類6),以下厚労省研究班分類).また,炎症粘膜を発生母地とした腫瘍と,同粘膜に偶発した腺腫(sporadic adenoma)とでは異なる臨床的対応が必要とされているが7),両者の鑑別基準はdysplasia分類,厚労省研究班分類のいずれにおいても整理・明示されていない.こうした状況のもと,本邦の病理医は,UCの異型上皮に対して用いるべき分類や用語の選択,UCの発癌早期病変と炎症・再生異型上皮,sporadic adenomaとの鑑別,に苦慮しているのが現状ではないだろうか.本企画では,アンケートと実際の症例の診断をもとに,本邦の消化管病理を専門とする病理医が,UCの異型上皮をどのように診断しているのかを提示・解析したい.
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