- 有料閲覧
- 文献概要
St. Mark's Hospital(SMH)における私の立場はWHO fellowであり,Dr. Morsonから与えられた研究課題を遂行することであった.開腹手術,局所切除を含む約2,500個のpolypoid lesionのプレパラートを検鏡して,腺腫と癌の関係を明らかにするのがテーマであった.異型度分類の設定は全部1人で行った.最初300病変の異型度を5段階に分けて記録し,もう一度観なおして一番ぶれの少ない基準を定めてこれを3段階に分け,以後はこの基準に従って分類した.すなわち,severe,moderate,mild dysplasiaである.わが国では,severe=m癌,moderateはsevere atypia,mildがmoderateとmild atypiaに分けられているが,全く良性のmild dysplasiaを臨床的に意味のない2つに分けるのは,日本人の分類好きの表れとしか言いようがない.パソコンも計算器もない時代ゆえ,全部手書きで方眼紙に記録した数値を累計するという前近代的研究方法であったが,様々な要因の中から,サイズ,組織型,異型度が腺腫の癌化の要因として重要であるという,比較的単純な結果が得られた.今では当り前な概念であるが,しかし,研究は"a kind of gamble"であるというDr. Morsonはこの結果を既に予測していたに違いない.さらにこの検索の間にpseudocarcinomatous invasionの研究も完成した.ポリープ研究の成果はpolyp(adenoma)-carcinoma sequenceとして1975年「Cancer」に掲載され,大腸癌発生の定説となった.検索材料が手術材料であったため2cm以上の病変が最も多く,2cm以上になって初めて癌化が起こるような結果であったが,その後,polypectomyにより2cm以下の症例が多数集められるようになると,1cm前後の腺腫にも癌化が起こることが明らかになり,さらに扁平腺腫(flat adenoma),陥凹型病変からの癌化の存在が明らかにされ,大腸癌発生のルートは多彩であることがわかってきた.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.