Coffee Break
大腸学事始め―(1)発端
武藤 徹一郎
1
1癌研有明病院
pp.1192
発行日 2006年7月25日
Published Date 2006/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403100629
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1970年,それは大腸癌をはじめとして大腸疾患にほとんど誰も目を向けていない時代であった.目を向けようにも疾患の頻度そのものが低かったのだろう.大腸癌による死亡数はたかだか4,000程度,潰瘍性大腸炎やCrohn病などはほとんどの医者が診たこともなかった時代から,わずか30年そこそこの間に大腸疾患がこんなに変わってしまうとは,誰が予想したであろうか.バブルがきてはじけるのを,誰も予想できなかったのと同じかもしれない.この1970年に,私は大腸疾患を将来の専門とするように運命づけられることになった.このような大腸学の発展を予想したわけでなく,全くの偶然からSt. Mark病院へ留学することになり,それが私の運命を変えたというのが事の真相である.学問はおろか臨床医学の端くれにも数えられなかった大腸疾患が,たった20年で大躍進を遂げた.臨床研究のみならず分子生物学の分野でも,学会における発表は大腸に関するものが著しく多い.この流れの中に初めからずっと居続けた者として,忘却の彼方に消え去ろうとしているその歴史の足跡を残しておきたいという気持ちになった.1つはそのような年頃になったせい,もう1つは長廻紘博士の「消化管内視鏡を育てた人々」に刺激されたためかもしれない.あんなに立派なドキュメントにはなりようがないが,多少の裏話は提供できるのではないかと思う.若い諸君への多少の刺激になれば幸いである.
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