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St. Mark's Hospital(SMH)は1835年,Frederick Salmonというロンドンの外科医によって開設された.St. Mark's Hospital for fist & e c.(fistula and etc.)と入口に書かれているように,主として痔の専門病院としてスタートした.
Salmonは進取の気象に富む外科医であったらしく,人事のことで上層部と意見が合わず,大学病院を飛び出して独立したのである.彼の外科医としての仕事は今では痕跡もなく,文献上痔核の手術法に遺されているのみであるが,痔瘻を病むCharles Dickensの主治医だったというから,当時は有能なcoloproctologistであったのであろう.SMHの名を高めたのは外科医たちのその後の継続的な努力にもよるが,痔の手術で名高いMilligan,Morgan,そして大腸癌分類の提案者として有名なDukesらの画期的な仕事が,SMHの名を不滅のものにしたと言ってよいであろう.Dukesは直腸癌(大腸癌)の分類のみならず,Lockhart-Mummeryとともに家族性大腸ポリポーシスが一疾患単位であることを提唱した点でも,医学界に大きな貢献をした.この仕事はSMHにおける完備した病歴の蓄積があったればこそ可能であった.病歴はすべて手書きであるが,家族歴がしっかりしていたことと,それを支える人々が存在したことが大きかった.SMHは痔疾患にとどまらず直腸癌の治療にも手を拡げるようになり,会陰部からの操作に慣れている特性を生かして,会陰部から直腸癌を切除する会陰腹式直腸切断術を考案し,Milesの腹会陰式直腸切断術と対抗したが,結局,Miles法に名を成さしめることになった.GabrielというSMHの外科医がこの手術法では大家であった.Milliganをはじめこれら歴史的な,教科書で名前を知った人々がみなSMHの医師で,1970年のころには既に引退していたとは言え生存中であり,握手できたときの感激は今でも忘れない.
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