社会病理と精神衛生・6
入試地獄
高木 隆郎
1
1京都大学医学部精神科
pp.82-83
発行日 1964年2月1日
Published Date 1964/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912159
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1.受験ノイローゼ
入試のシーズンが今年もやってきた。読者の家族にも幼稚園から大学まで,何らかの入学試験の狭き門に直面している方が少なくないだろうし,また目下のところ入試地獄は一種の社会問題でもあるので,今月は精神衛生の面からこの問題をとりあげることにした。だが何といっても受験ノイローゼになって,精神科の外来をおとずれるのは,大学入試を目前にしたもの,そのうちでも,とくに浪人組に多い。かれらは,頭が痛い,胃の具合が悪い,眼が疲れるなどといった心気症(ヒポコンドリー)的な訴えから,記憶力が悪くなった,本を読んでも字面を追うだけで何も頭に入らない,考えがまとまらないなどといった自分の知的能力,学習力の無能無力感を訴えるいわば神経衰弱型,活字が日の中にとびこんでくる,本をひろげると怖くなって目をひらくことができない,ペンや鉛筆の尖端がこわくて字がかけないなどという多分に勉強状況に関連した一種の強迫神経症等の形をとることがもっともふつうである。いずれにしても,この状況では,自分は受験勉強が続けられない,といういわば現実の困難を回避する姿勢にあることが共通の特徴である。
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