iatrosの壺
心疾患のターミナルケア
丹下 正一
1
1北関東循環器病院循環器内科
pp.24
発行日 1996年11月30日
Published Date 1996/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402905394
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末期患者の延命治療については,否定的な意見が大半を占める.循環器領域の心不全の末期状態では,延命のための延命か,一縷の望みを賭けた究極の治療を行っていくか,の判断をせまられ,難しさを痛感する.
Becker型筋ジストロフィーの26歳の男性患者が,拡張型心筋症の心不全で入退院を繰り返していた.前回までは長期間のカテコールアミン静注と利尿薬の使用で改善をみたが,今回は右心不全による気分不快と食欲不振が著しく,経口摂取が困難となった.IVH療法とカテコールアミン,利尿薬の使用,腎機能低下に伴う血液透析(CVVH)を施し,一時回復の兆しをみた.繰り返す心不全のためか,患者は死への不安とベッド上での不自由な生活に耐えきれず,依存心が強くなってきた.家族や看護婦がいつもそばにいることを欲し,氷や水,果物などへの欲求頻度が多くなった.その経過中,再び尿量が減少し,病状が悪化した.この状態ではカテコールアミン離脱は困難と判断し,家族と予後について相談し,看護チームとカンファレンスをもった.治療方針としてIABPと気管内挿管は行わないことにした.これらの治療が安静を余儀なくするばかりでなく,挿管による苦痛と,患者とのコミュニケーションを著しく障害することと,病状の経過から内体的・精神的ストレスが過剰となる延命治療が,必ずしもこの患者のQOLを高めるとは思えないからであった.
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