一冊の本
「The Tragedy of the Baltic States」—(John Alexander Swettenham 著,Hollis and Carter, London, 1952)
泉 孝英
1
1京都大学結核胸部疾患研究所・内科
pp.2097
発行日 1985年11月10日
Published Date 1985/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402220033
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「バルト三国の悲劇」と題した本書は,バルト海東岸に位置したエストニア,ラトヴィア,リトアニア三国の独立から消滅までの歴史を,公式文書と証言を中心に編集したドキュメントで,著者は第二次大戦後の西ドイツでバルト三国からの避難民収容所に勤務した退役軍人である.
昨年,中曽根首相の「フィンランド化」という発言を巡って我が国で物議を醸したことがある.しかし,この発言に対してフィンランド政府から口上書としての抗議はあっても,フィンランド国民からの抗議は起る筈のないことは,通常の頭脳と神経の持主なれば,フィンランドで3日暮らせば判る筈である.1948年に締結された芬ソ友好協力相互援助条約は実に2003年迄有効となっている.鉄道線路の幅一つとってみてもフィンランドはソ連と同じ超広軌(1,524mm)である.ロシア帝国からソヴエト社会主義共和国連邦と国内体制は変っても,ロシア・ソ連の周辺諸国に対する脅威度は高まるばかりである.中ソの対立もネルチンスク条約(1689)以来のものであり,中ソの歴史は換言すれば中国にとっては被侵略の300年である.これに較べれば日中の対立は日清戦争(1894〜1895)前後から大東亜戦争の終結(1945)までのたかだか50年に過ぎないとも言える.
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