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骨折や脱臼の治療は外科領域においても昔からの治療体系が最も確立されたものの一つである.ギリシャのHippocratesの教本が現在の驚くべぎき外傷学における進歩にもかかわらず,なお十分役に立つものである.著者John Charnleyは人工股関節で世界的に有名であり,変形性股関節症,リウマチ様関節炎の股関節に対し大腿骨頭のみならず臼蓋をも人工物で置換するという股関節全置換術total hip replacementを創始したイギリスWrightingtonの整形外科医である.しかもこの手術はかなり大きい手術であり積極的に何千例もの患者に行なっているという彼が骨折の保存的療法という題で本を出版したことは極めて興味深いものがある.われわれ整形外科医にとって骨折は最も頻繁に遭遇するものの一つであるが,その治療法についても最近の本邦での風潮からみて多少反省させられることである.小生らが師や先輩から教えられたことは,ほとんどの骨折はconservativeに行ない,特に子供の骨折にいたっては手術を要するものはほとんどない,ということであった.しかるに,建康保険制度の弊害も伴ってか手術の適応を拡大している風に見受けられることも稀ではない.大きく傷害部を切開しレ線上自己満足的に解剖学的整復が成功したからといってその後隣接する関節の動きが制限されあるいは骨癒合が悪くなり実際上日常生活動作も劣るものがかなりあるであろう.要は機能が大事だということである.その意味で本書を一読することも重要であろうと考える.
内容は270頁にわたるが比較的コンパクトにまとめられ,Ⅰ.保存療法と手術療法.Ⅱ.保存療法の力学,Ⅲ.保存療法における関節の動き,Ⅳ.ギプスを用いない骨折の治療,Ⅴ.ギプス巻き,Ⅵ.上腕骨幹部骨折,Ⅶ.小児における上腕骨顆上骨折,Ⅷ.尺骨,橈骨の骨折,Ⅸ.Collesの骨折,Ⅹ.Bennettの骨折,ⅩⅠ.指の骨折, ⅩⅡ.大腿骨転子間骨折, ⅩⅢ.大腿骨幹部骨折, ⅩⅤ.大腿骨脛骨顆部骨折,ⅩⅣ.脛骨幹部骨折, ⅩⅥ.Portの骨折,である.もちろんここで論ぜられているのは普通の,しかも傷のない骨折のことである.彼は,手術療法の乱用を戒めると共に,また転位のないsmall crackのような骨折にも安易にギプスを巻いてしまうことに反省を求めている.すなわち,手術の適応はなにか,ギプス固定の適応はなにかを良く見極めることが大切だということである.保存的療法といえどもギプス固定が最良の方法ではないのである.却って治癒を遷延させてしまうこと,患者の苦痛をはなはだしく増してしまうことさえある.その意味でⅣ章のギプスを用いない骨折の治療法は,ギプス巻きになれ切ってしまったわれわれに再考の機会を与えるであろう.また,ギプスの巻き方について,その基本を書物から学んだ人は少ないと思われるし,その方面の適当な書物も余り見当らない.先輩から教えられ,また自らの経験から自己流を生み出し,それを最高のものとしている方々も多かろうと思われる.Ⅴ章ではその基本を説き,またpadの当て方,窓の開け方,失敗しやすい点等を懇切丁寧に教えている.
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