天地人
生・老・病と死の医学
笹
pp.1805
発行日 1983年10月10日
Published Date 1983/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402218489
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小野小町と言えば,一般に美人の代名詞みたいなものだが,彼女の素性は,今日,意外と伝説的で謎めいている.出羽国郡司の娘で九世紀初め上洛,宮中に仕えて仁明天皇の寵を得たが,帝の死後いつしか都から姿を消す.その間,生来の美貌と秀れた歌道の才能に言い寄る男も多かったが,容易に身を許さなかったともいう.そんな事柄が禍してか,この田舎娘に対する後宮の女御たちの嫉みねたみ,袖にされた男どもの怨みつらみは次第に嵩じ,不詳の晩年の小町像は,殊更に老醜に仕立て上げられていった嫌いがある.後世,小町九相図,小町壮衰絵巻など些かサジスチックな美女落魂調が生まれたり,又,ある種の好事家間で「小町針」の語源と結び付く肉体欠陥説さえも囁かれるようになったのも,多分その故であろうか.
花の色はうつりにけりないたづらに 我が身世にふるながめせしまに
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