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老局長と結核
S
pp.70-72
発行日 1956年2月10日
Published Date 1956/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201127
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逓信省時代では毎年一回体格検査があり,嘱託医は物々しい聴打診のみで異状の有無を判定し,所謂お役所流に何回かの印鑑を通過して事足れりとされておつたが,現在では御承知の様に胸部疾患に対しレントゲン間,直,断撮影,赤沈,喀痰及び血圧,便等の綜合検診に加えて保健婦の巡廻指導迄に到つたことは医師ばかりでなく,被管理者にとつても大きな福音であると思う.然し乍ら現在の健康管理のあり方が戦前の人人にとつては必ずしも好感を持たれなく,むしろ繁雑にさえ感じられると思われることもあり,又旧時代の体格検査時の嘱託医の不用意な言葉をあくまで根拠あるものと確信して自らの健康に過信となり60才以上では健康診断の必要すらないと放言する者さえある様です.
これからの私の体験した一つのケースを報告して,皆様の御参考になればと思います.少し旧聞になりますが,物語りは東京から北へ2時間の或小都市でのことでした.此処は旧くから中仙道の要衝で諸官庁の中心でもあり,この地方きつての商業都市である関係から,昔の士族と言われる存在は自他ともに重きを置かれておりました.この街の新市域に70才に近い特定局長がおり,仮にS氏と申しましよう.
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